抄録
社会や環境から受けるストレスは抑うつや不安亢進などの情動変化を引き起し,うつ病などの精神疾患のリスク因子となる。心理的なストレスは内側前頭前皮質(mPFC)に投射するドパミン系を活性化するが,その役割は不明であった。近年,マウスのストレスモデルを用い,短期的なストレスはmPFCのドパミン応答とドパミンD1受容体活性化を介してストレス抵抗性を増強し,長期的なストレスはmPFCのドパミン応答を抑制して情動変化を促すことが示された。この変化に伴い,短期的なストレスはmPFC興奮性神経細胞の樹状突起を造成し,長期的なストレスでは樹状突起が萎縮する。ストレスによる樹状突起造成と樹状突起萎縮を担うメカニズムは異なり,mPFCのD1受容体は短期的なストレスによる樹状突起造成にのみ必須である。これらの知見は,ストレスがmPFC興奮性神経細胞の形態変化を介してストレス抵抗性を調節していることを示唆しており,この分子メカニズムが精神疾患などストレス性疾患の新規創薬標的となることが期待される。