日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
精神行動制御における長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1の 役割と創薬への可能性
中本 賀寿夫徳山 尚吾
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2018 年 29 巻 2 号 p. 64-68

詳細
抄録

ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系脂肪酸の低下は,うつ病や統合失調症などの精神疾患の病態形成と密接に関係しているとされている。一方,n-3系脂肪酸の摂取は,産後うつ病などの精神疾患の緩和やその発症率を低下させる可能性も示されている。しかしながら,これらのメカニズムについては不明である。  近年,G‐蛋白質共役型受容体の一つで中・長鎖の脂肪酸によって活性化される脂肪酸受容体GPR40/FFAR1が同定され,中枢神経系における役割が注目されている。我々はこれまでに,GPR40/FFAR1欠損(KO)オスマウスを用いた検討から,脳内の脂肪酸-GPR40/FFAR1シグナル機構の破綻が,脳内のノルアドレナリンの増加を示し,情動行動の異常を示すことを報告した。一方,GPR40/FFAR1欠損メスマウスでは,育児放棄および喰殺行動の個体数が,野生型(WT)マウスよりも増加することや,仔を巣へ運ぶレトリービング行動に異常があることを見いだしている。したがって,母性行動に本シグナル機構が関与している可能性を提唱している。以上より,脳内の脂肪酸‐GPR40/FFAR1シグナル機構の低下または破綻は,情動行動および養育行動に密接に関係している可能性が考えられる。本総説では,精神行動制御における脂肪酸受容体GPR40/FFAR1の役割と創薬への可能性について我々の成績をもとに紹介する。

著者関連情報
© 2018 日本生物学的精神医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top