抄録
カルシウムイオンは,真核生物細胞におけるシグナルメディエーターとして広範な細胞機能の調節にかかわっている。脳神経系におけるカルシウムシグナルの役割としては,神経伝達物質の放出,神経細胞の分化・成熟,神経可塑性,神経細胞死などが知られている。一方,ストレスフルな環境は気分障害や不安障害などさまざまな精神疾患の発症リスク要因となることが知られているが,最近,このストレス環境によって惹起される神経可塑性異常や行動変容に対する神経細胞内カルシウムシグナル異常の関与が示唆されている。本稿では,ストレスによるカルシウムシグナル異常と行動変容・精神疾患との関連について概説したい。