抄録
統合失調症を中心とする多くの精神疾患で,作業記憶,学習,知覚情報処理などの認知機能障害が存在し,予後および日常生活に大きな影響を与えている。難治性である故に,そのメカニズムの解明とそれに基づく効果的な治療法の開発が急務となっている。これまでの研究から認知機能の中心的な役割を担う前頭前野において興奮性と抑制性神経活動のバランスの変化が,精神疾患の認知機能障害の神経基盤の一翼を担っていることがわかってきた。筆者らは前頭前野を中心とする神経ネットワークにおいて,興奮性と抑制性ニューロンで起きている機能変化を引き起こす上流の因子やシグナル変化を同定することが,疾患の病理病態の本質的な理解と治療法の開発につながると考えており,本稿ではその解明に向けて推進している主に死後脳組織を用いた研究を紹介する。