抄録
統合失調症の発症原因解明,予防や治療法の確立の手段の一つはヒトに類似した動物モデルを作製し,解析することである。ヒト疾患のモデル動物確立の際,3つの条件(妥当性)を満たす必要がある。①表面妥当性,②構成概念妥当性,③予測妥当性によって評価される。本研究では発症までの時間軸を取り入れた簡便な統合失調症モデルマウスの作製が急務であると考え,妊娠期のマウスに神経新生抑制薬であるメチルアゾキシメタノール酢酸(MAM)を投与し,出生した雄性マウスの行動解析および神経化学的検討を行った。胎生期MAM曝露マウスは,陽性症状様の運動亢進,陰性症状様の社会性低下,短期記憶・感覚情報処理の障害を惹起させた。これらの行動障害は,56日齢以降に顕著であり,統合失調症が思春期以降に発症することと一致していた。前頭前皮質におけるドパミン神経系の変化,海馬錐体細胞の形態的変化が認められた。胎生期MAM曝露マウスの行動障害は定型抗精神病薬では運動過多以外は改善されず,非定型抗精神病薬ではすべての障害が改善された。以上のように,胎生期MAM曝露マウスは,ヒト疾患のモデル動物確立の際,3つの条件(妥当性)を満たし,胎生期MAM曝露“ラット”よりも優れた統合失調症のモデル動物に成り得る可能性を提唱した。