抄録
世界各国で,食事中に占める単純糖(砂糖,ブドウ糖果糖液糖など)の消費量は近現代に入り急激に増加しているが,脳機能への詳細な影響の検討は未だ研究途上である。単純糖の摂取量は思春期でもっとも多く,その時期はちょうど統合失調症(SZ)や双極性障害(BD)の発症時期と合致する。筆者らは,思春期における単純糖の摂取過多が上記のような精神疾患の発症に関与するのか,動物モデルを作成することで因果関係の証明を試みた。そして,単純糖の摂取過多は脳の組織学的,行動学的変化をもたらし,その表現型はGlyoxalase‐1という種々の精神疾患で活性や発現低下が報告されている酵素のヘテロ欠損を伴うと決定的なSZやBD様の所見を示す結果となった。筆者らはさらに,作成した精神疾患モデルマウスにおいて非糖尿病性の毛細血管障害,血中から脳内へのGlucose取り込み低下を検出した。そして,これら2つの表現型および,いくつかの異常行動は低容量のアスピリンの長期投与によって予防された。また,マウスで観察された毛細血管障害と同様のものを,SZ,BDの患者死後脳でも検出した。以上の結果は,単純糖摂取過多による何らかの代謝異常により精神疾患が発症しうることを示唆し,血管障害が新たな表現型もしくは治療対象となりうることを示している。