日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
研究における遺伝情報の返却について考える─臨床ゲノム研究(Project HOPE)5,000症例の経験から─
堀内 泰江浄住 佳美浦上 研一山口 建糸川 昌成新井 誠
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2022 年 33 巻 3 号 p. 133-138

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抄録
次世代シークエンサーなどのゲノム解析技術の飛躍的な進歩により,複数の遺伝子変異を短時間で網羅的に解析することが可能となり,患者の遺伝子解析情報を医薬品の開発などの研究での活用や診断,治療法選択に活用するクリニカルシーケンシングの社会実装が急速に進んでいる。一方で,網羅的な全ゲノム解析は本来の目的とは異なる二次的な所見(secondary findings)の結果開示という新たな課題も生じ,その対応が議論されている。わが国においても,二次的所見ガイドラインが作成され,がんゲノムプロファイル検査などの生殖細胞系列遺伝子バリアントの開示がすでに臨床で実施されている。ゲノムの情報は,当事者だけでなく血縁者で共有するものであるため,被検者本人が疾患関連遺伝子バリアントを有する場合,その血縁者も同様に疾患発症リスクを持っている可能性を示すことになる。そのため,結果開示には結果を知るメリット・デメリット,知る権利,知らないでいる権利,双方を尊重した慎重な遺伝カウンセリングが必要となる。筆者らは,静岡県立静岡がんセンターで進められている臨床ゲノム研究(Project HOPE)において,これまでに約5,000症例のエクソーム解析を行い,二次的所見として検出されたガイドラインに基づく病的バリアントを研究参加者に返却するまでの院内連携・遺伝カウンセリングシステムを構築してきた。本稿では,筆者らが取り組んできた臨床ゲノム研究の実施経験から,患者への遺伝情報開示,遺伝カウンセリング,ゲノム研究成果の臨床還元の展望と課題について概説する。
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© 2022 日本生物学的精神医学会
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