抄録
iPS細胞技術の登場により,患者の遺伝情報を保持する神経系細胞を用いて,直接的に神経機能異常をin vitroで調べることが可能になった。ヒトとマウスなどのモデル生物との脳機能の種差を考慮すると,ヒト(患者)神経細胞を用いた分子病態研究が重要であると考えられ,従来の研究を補完するものとして期待されている。これまでに,多くの統合失調症患者のiPS細胞由来分化神経細胞が作製され,分子病態解析が実施されてきており,疾患の分子病態の一端が明らかになっている。また,分子病態研究のみならず,iPS細胞技術を用いた医薬品の探索,探索段階における薬効評価,さらには医薬品の毒性評価系の構築などの研究が精力的に進められている。iPS細胞技術を用いた精神疾患の分子病態研究は,まだその歴史は長くなく,今後の発展が期待される。今後,基盤技術であるiPS細胞の培養・分化技術の開発,精神疾患の分子病態研究,および創薬研究がさらに発展していくことが期待される。