世の中の多くの事柄には例外が存在する。例えば,ヒトの体を構成する各細胞のゲノム配列は,すべて同じ,ではない。それは,分化や生育の過程で一部の細胞にのみ生成されたゲノム配列の変化,すなわち体細胞変異(somatic mutation)が存在するからである。体細胞変異は,悪性腫瘍や限局性皮質異形成などのヒト疾患の原因となることが知られているが,これらに加え,精神神経疾患の病態やリスクにも関与する可能性が近年示されている。本稿では,神経発達障害の原因となることがすでに知られている遺伝子が,体細胞変異によって一部の細胞のみで傷害されることが,双極性障害のリスクにつながるのではないかということを示す筆者らの研究を紹介するとともに,体細胞変異と精神神経疾患の関連について,末梢もしくは脳組織サンプルを用いて遺伝子網羅的に探索した近年の研究における知見を概観する。