抄録
遺伝学的研究や疫学的研究から,統合失調症の背景病態の一つに自己免疫が指摘されてきた。自己免疫病態を形成する重要な要素は自己抗体であるが,自己免疫性脳炎の患者から新しいシナプス自己抗体が発見され,それらの自己抗体が陽性の急性精神病である自己免疫性精神病の概念が提唱されてきた。これらを背景に,筆者らは統合失調症においても病態を形成する未知のシナプス自己抗体の存在を仮定して,その探索を行ってきた。その結果,シナプス接着分子であるNCAM1やNRXN1に対する新規の自己抗体を発見した。これらの自己抗体を患者から単離し,マウスの髄液中に投与すると,自己抗体はNCAM1やNRXN1のシナプス結合における分子間結合を阻害し,シナプス/スパインの減少につながり,認知機能の低下やプレパルス抑制の異常,社交性の低下を引き起こす。統合失調症患者に存在するこれらの自己抗体は除去すべき病態形成因子である可能性があり,これらの自己抗体は治療標的となる可能性がある。また,統合失調症患者において,そのような治療が可能な一群を区別するバイオマーカーとして役立つ可能性がある。