抄録
統合失調症患者においては,逸脱音の持続時間が標準音のものと異なるオドボール課題での聴覚ミスマッチ陰性電位(duration MMN)の振幅が減衰することが知られており,その振幅の順応成分は異常を示さないが,逸脱検出成分の選択的な減少を示す。しかし,逸脱検出の神経回路基盤は不明であった。筆者らは最近,小型霊長類コモンマーモセットの聴覚野において,1光子・2光子カルシウムイメージングを行うことで,duration MMNにかかわる神経活動を計測し,高次聴覚野の一部である吻側パラベルト(RPB)の一部のニューロン群が逸脱検出(予測誤差信号)のみを表現することを見出した。さらに薬理学的阻害実験と光遺伝学的手法を用いて,RPBの信号が一次聴覚野へフィードバックされることが聴覚野での逸脱検出の生成に本質的であることを見出した。本稿ではこの研究について概説する。