抄録
ミスマッチ陰性電位(mismatch negativity:MMN)は,規則的な感覚刺激に対して逸脱する感覚刺激が提示された際に生じる脳波の陰性電位であり,前注意的に周囲の状況の変化を検出する脳の仕組みを反映するとされる。MMNは特に聴覚系で多く研究され,統合失調症などの精神疾患においてその応答が減少することが確認されてきたため,病態解明の手がかりやバイオマーカーとして注目されている。げっ歯類はヒトと類似した脳神経構造をもち,脳活動の記録や遺伝子改変,神経回路操作実験の容易さなどから,MMNの背景にある動作メカニズムや病態の理解において重要な役割を果たしてきた。近年ではカルシウムイメージングなどの技術や分子生物学的ツールが発展し,特定の神経回路を構成する細胞群の機能や関連する分子基盤が解析可能となっている。これにより,逸脱検出機能にかかわる神経活動の理解が進み,精神疾患研究への新たな展望が開かれることが期待される。