日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
最新号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 笠井 清登
    2025 年36 巻3 号 p. 93-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
  • 宮田 淳
    2025 年36 巻3 号 p. 94-97
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    精神疾患の診断に操作的診断基準を用いることが標準的となり,「精神症状を正確に記述し,背景にある病理を考察する」従来の精神病理学の重要性は下がったようにみえる。一方,精神症(サイコーシス。妄想,幻覚,自我障害などを呈する状態)の機序に関する神経科学的研究の知見が,精神病理学上の概念と符号することがしばしばある。本稿では精神症の精神病理学をMRI,脳波,計算論などの神経科学的観点から再考した。そのなかで筆者は中脳─線条体のドーパミン過剰により起こる異常サリエンスに注目し,それが妄想の形成しやすさとかかわること,妄想・幻覚・自我障害をサリエンスの領域特異性から捉えられること,これまでの定説と異なり線条体の腹側よりも背側とのかかわりが示されたことなど,精神症の精神病理学を神経科学の立場から再構成・発展させることを試みた。
  • 前田 貴記, 大井 博貴
    2025 年36 巻3 号 p. 98-104
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    精神病理学は,症状の記述が第一であるが,記述するだけでは「現象論」に留まり,症状形成の「機構論」を展開することができない。筆者らの方法論は,特異的な基本障害を抽出し,行動実験によって基本障害形成の「機構論」を展開することで病態仮説を提唱しようとするアプローチである。「機構論」を展開することができれば,「治療回復論」についても論ずることができよう。統合失調症の特異的な基本障害は,体験野全体(内界,身体,外界)に「異質性(Fremdheit)」が浸潤している異質化体験(Entfremdungselrebnis)と考えている。「異質性」の浸潤が極まれば,起源不明の異質な力(fremde Mächte)の影響を受けていると体験するようになり,自我体験についてはgemacht(させられる)と体験され(被影響体験),知覚についてはgestellt(しくまれる)と体験されるようになる(妄想知覚)。筆者らはSense of Agencyパラダイムにおいて,独自の行動実験(Keio method)を考案し,異質化体験の形成機構について研究を進めてきた。人間が生きていくためには予測(prediction)はとりわけ重要な脳機能であり,外界についての内部モデル(internal model)に基づいて予測的に行動しているが,予測とは異なる新奇データが得られたときに,予測誤差最小化の原則に従って,絶えず内部モデルを更新(学習)し,外界への適応を試みている。知覚における予測誤差最小化は予測符号化(predictive coding)モデルによって,行為を介する予測誤差最小化については能動的推論(active inference)モデルによって説明される。異質化体験の症状形成機構として,予測機能の異常による予測誤差(prediction error)の増大に因ると考えられるが,筆者らは予測シグナルの遅延が生じることで,予測誤差の増大をきたしているとのdelayed prediction signal仮説を提唱している。なお,Keio methodを改変し,強化学習のしくみによって,予測モデルの不適切な更新(学習)を防ぎ,統合失調症の自我障害を正常化しようとする,“agency tuning”という治療方法を開発し,研究を進めている。
  • 山下 祐一
    2025 年36 巻3 号 p. 105-108
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    脳の計算理論は,精神病の病態メカニズム解明に新たな視点を提供する研究アプローチである。本稿では,もっとも有力視される脳の計算理論である「予測情報処理」理論に基づき,精神病の症状形成における予測,予測誤差,予測精度の異常に焦点を当てる。幻覚や妄想などの精神病症状は,これらの要素の異常が階層的に相互作用することで生じる可能性が示唆されている。ニューロロボティクスを活用した実験的枠組みを通じ,予測,予測誤差,予測精度の各異常が精神病の症状形成に帰結する可能性を検証した研究を紹介する。これらの結果に基づいて,精神病の症状形成における非特異性(多元的経路)と異質性(等価的経路)の重要性を指摘し,精神病の統合的理解に向けた新たな道として,単一の経路に依存しない多面的な理解の必要性を論じる。
  • 越山 太輔, 西村 亮一, 切原 賢治, 笠井 清登
    2025 年36 巻3 号 p. 109-113
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    統合失調症の病態の解明に有用な脳波指標にミスマッチ陰性電位(mismatch negativity:MMN)がある。MMNは統合失調症においてその振幅が低下していることが繰り返し報告されており,認知機能,陰性症状,機能的アウトカムなどの臨床症状と関連することも知られている。MMNには逸脱刺激の音の持続時間の長さを変えて得られるduration MMN(dMMN)と,音の周波数の高さを変えて得られるfrequency MMN(fMMN)がある。発症後早期統合失調症や精神症ハイリスクなどの統合失調症の早期段階においてはdMMNとfMMNの振幅の低下の臨床病期が異なることや,臨床症状との関連の仕方が異なることが知られている。近年は統合失調症におけるMMNのメカニズムの研究や電位源を特定する研究が進められている。またMMNは動物でも測定可能な指標であり,サルなどを用いた研究によりMMNの発生源や発生機序についての詳細な研究結果も報告されている。これらの研究成果は統合失調症の病態の解明に大きく貢献しており,今後は臨床および基礎研究の両方においてMMNを標的として新たな治療法の開発が進むことが期待される。
  • 松崎 政紀
    2025 年36 巻3 号 p. 114-117
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    統合失調症患者においては,逸脱音の持続時間が標準音のものと異なるオドボール課題での聴覚ミスマッチ陰性電位(duration MMN)の振幅が減衰することが知られており,その振幅の順応成分は異常を示さないが,逸脱検出成分の選択的な減少を示す。しかし,逸脱検出の神経回路基盤は不明であった。筆者らは最近,小型霊長類コモンマーモセットの聴覚野において,1光子・2光子カルシウムイメージングを行うことで,duration MMNにかかわる神経活動を計測し,高次聴覚野の一部である吻側パラベルト(RPB)の一部のニューロン群が逸脱検出(予測誤差信号)のみを表現することを見出した。さらに薬理学的阻害実験と光遺伝学的手法を用いて,RPBの信号が一次聴覚野へフィードバックされることが聴覚野での逸脱検出の生成に本質的であることを見出した。本稿ではこの研究について概説する。
  • 水谷 俊介
    2025 年36 巻3 号 p. 118-122
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
    ミスマッチ陰性電位(mismatch negativity:MMN)は,規則的な感覚刺激に対して逸脱する感覚刺激が提示された際に生じる脳波の陰性電位であり,前注意的に周囲の状況の変化を検出する脳の仕組みを反映するとされる。MMNは特に聴覚系で多く研究され,統合失調症などの精神疾患においてその応答が減少することが確認されてきたため,病態解明の手がかりやバイオマーカーとして注目されている。げっ歯類はヒトと類似した脳神経構造をもち,脳活動の記録や遺伝子改変,神経回路操作実験の容易さなどから,MMNの背景にある動作メカニズムや病態の理解において重要な役割を果たしてきた。近年ではカルシウムイメージングなどの技術や分子生物学的ツールが発展し,特定の神経回路を構成する細胞群の機能や関連する分子基盤が解析可能となっている。これにより,逸脱検出機能にかかわる神経活動の理解が進み,精神疾患研究への新たな展望が開かれることが期待される。
  • 澤頭 亮
    2025 年36 巻3 号 p. 123-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル オープンアクセス
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