2018 年 59 巻 1 号 p. 100-109
精神科急性期閉鎖病棟に入院した女性患者の子育て経験の有無と実子に対する児童虐待について検討した。2003年1月から2004年12月までの2年間に入院した女性患者191名のうち,子どもを産んだことのある女性は82名(42.9%),現在母親として子どもの養育に関わっている女性は24名(12.6%)であった。母親による児童虐待例は82名中11名(13.4%),出産・育児に関連して精神症状を発症/増悪した母親は25名(30.5%)であった。また,子どもの数は平均1.9人,3人以上の子どもがいる母親は15名(18.3%)と,精神障害を抱えつつ多くの子どもを育てている状況であった。急性期閉鎖病棟に入院した母親に関して,生活の背景に児童虐待が存在していないか確かめることは重要であるが,それに加えて出産や育児といった女性にかかわりの深いライフイベントの中で自身の精神障害の発症/増悪と育児困難をきたしやすい「ライフイベント・ハイリスクマザー」として捉えることで,精神科医が彼らに対して長期的視野にたった継続的な精神科医療を実践し,その結果として児童虐待の予防につながると考えられる。