抄録
ヒツジの肝スライスにおける酢酸の代謝にブドウ糖が影響を及ぼし, しかも飢餓およびアロキサン処理によって酢酸の代謝そのものが変化するとともに, ブドウ糖の酢酸の代謝に対する作用もアロキサン処理によって変化することが知られているが, この酢酸の代謝と解糖系との関係ならびにその調節機序をより明らかにする実験の一端として, 正常, 飢餓およびアロキサン糖尿ヒツジの肝スライスにおいて, ブドウ糖の代謝物質であるリンエノール焦性ブドウ酸, 焦性ブドウ酸ならびに乳酸の添加が酢酸の代謝に対してどのような影響を及ぼすかについて検索を行った。
その結果, 正常および飢餓ヒッジの肝スライスにおいては, リンエノール焦性ブドウ酸の添加は, 14C-酢酸の14CのCO2, コレステロールエステル, トリグリセリド, 遊離コレステロールならびにリン脂質へのとりこみを増加させる一方, 14Cのブドウ糖, ケトン体ならびにNEFAへのとりこみを減少きせている。しかしながらアロキサン糖尿ヒツジの肝スライスにおいてはリンエノール焦性ブドウ酸の添加は, 14C-酢酸の14Cのケトン体へのとりこみを減少させているものの, 14CのCO2, ブドウ糖ならびに各脂質分画へのとりこみに対しては影響を与えなくなっている。
これらの各条件下におけるリンエノール焦性ブドウ酸の酢酸の代謝に対する影響はその影響の程度も含めてブドウ糖の添加の場合とほぼ同様であり, しかも焦性ブドウ酸および乳酸の添加は正常, 飢餓およびアロキサン糖尿時を問わず何れの場合も酢酸の代謝に対して無影響であるので, ヒッジの肝スライスにおいて酢酸の代謝はブドウ糖-リンエノール焦性ブドウ酸系と密接な関連をもつものの, 焦性ブドウ酸および乳酸とは無関係に行われているものと考えられる。 またアロキサン糖尿時の結果より考えて, ブドウ糖-リンエノール焦性ブドウ酸系の酢酸よりのCO2, ブドウ糖ならびに脂質生成系に対する作用にはインシュリンが関与しているが, ケトン体の生成に対する作用にはインシュリンがあまり関与してないものと推定される。