日本救命医療学会雑誌
Online ISSN : 2758-1055
Print ISSN : 1882-0581
総説
敗血症での心筋代謝とミトコンドリア機能
岡田 基
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2025 年 39 巻 p. 1-8

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抄録
 敗血症は, 感染に対する宿主の異常な反応に起因する臓器機能障害を引き起こす重篤な病態である. 中でも敗血症性心筋症 (sepsis-induced cardiomyopathy; SICM) は, 敗血症に伴う予後不良の病態の一つである. SICM患者の死亡率は30~70%で, 非心臓関連の敗血症患者の死亡率の2~3倍である1). 一般的に初期には左室の過収縮を伴うhyperdynamic stateを経て, 48~72時間後に急激な心収縮の低下を来し, 7~10日で心機能は回復するとされるが, 予後は患者によって大きく異なる. SICMはこのような現象をとらえてはいるが, その病態は十分に解明されているとはいえない.
 ミトコンドリアは, 心筋のエネルギー代謝に不可欠なアデノシン三リン酸 (ATP) を生成することにより, 細胞のエネルギー産生に重要な役割を果たしている. 近年, 重症敗血症が心筋細胞におけるアポトーシス, 不完全なオートファジー, マイトファジーなどのミトコンドリアの構造異常を引き起こすだけでなく, その機能を低下させ, ATP枯渇につながることを示唆するエビデンスが増えている. この代謝障害はSICMの重大な原因であると認識されている. また, 敗血症での過剰な炎症因子は, βアドレナリン受容体機能を低下させ, 心筋では強心薬による効果的な治療ができない.
 本総説は, 敗血症における心筋細胞死とその分子メカニズムに関する最近の知見を共有し, SICMの重要な代謝調節因子としてのミトコンドリアの役割に焦点を当てたものである.
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