日本救命医療学会雑誌
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最新号
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巻頭言
総説
  • 岡田 基
    2025 年39 巻 p. 1-8
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル フリー
     敗血症は, 感染に対する宿主の異常な反応に起因する臓器機能障害を引き起こす重篤な病態である. 中でも敗血症性心筋症 (sepsis-induced cardiomyopathy; SICM) は, 敗血症に伴う予後不良の病態の一つである. SICM患者の死亡率は30~70%で, 非心臓関連の敗血症患者の死亡率の2~3倍である1). 一般的に初期には左室の過収縮を伴うhyperdynamic stateを経て, 48~72時間後に急激な心収縮の低下を来し, 7~10日で心機能は回復するとされるが, 予後は患者によって大きく異なる. SICMはこのような現象をとらえてはいるが, その病態は十分に解明されているとはいえない.
     ミトコンドリアは, 心筋のエネルギー代謝に不可欠なアデノシン三リン酸 (ATP) を生成することにより, 細胞のエネルギー産生に重要な役割を果たしている. 近年, 重症敗血症が心筋細胞におけるアポトーシス, 不完全なオートファジー, マイトファジーなどのミトコンドリアの構造異常を引き起こすだけでなく, その機能を低下させ, ATP枯渇につながることを示唆するエビデンスが増えている. この代謝障害はSICMの重大な原因であると認識されている. また, 敗血症での過剰な炎症因子は, βアドレナリン受容体機能を低下させ, 心筋では強心薬による効果的な治療ができない.
     本総説は, 敗血症における心筋細胞死とその分子メカニズムに関する最近の知見を共有し, SICMの重要な代謝調節因子としてのミトコンドリアの役割に焦点を当てたものである.
原著
  • 田中 光一, 越智 麻理絵, 二宮 鴻介, 塩岡 天平, 中城 晴喜, 竹内 龍之介, 馬越 健介
    2025 年39 巻 p. 9-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル フリー
     経鼻胃管症候群は経鼻胃管挿入後に声帯外転麻痺を生じる比較的稀な症候群であるが, 致命的経過を辿りうる重篤な合併症である.
     2017年4月から2022年3月までの5年間に当院で診療した両側声帯麻痺から緊急気管切開を必要とした経鼻胃管症候群の症例は4例であった. この4例では経鼻胃管症候群の主要兆候とされる咽頭痛が診療録に記載されておらず, すべての患者で吸気性喘鳴を認めた. 発症時には全例がベッド上安静を余儀なくされており, 低栄養リスクの高い状態であった. 発症後, 全例で緊急気管切開が行われた. このうち1例では声帯運動が回復し発症28日後に気管切開カニューレを抜去できた. 残る3例のうち2例は原疾患のために死亡し, 1例は声帯運動の回復を認めなかった.
     経鼻胃管症候群の発症には唯一の声門開大筋である後輪状披裂筋が明確な筋膜構造をもたないことに加え, 経鼻胃管が通過する輪状後部は非常に狭く, 物理的, 生理的に持続的な圧を受けやすいという解剖学的特徴が関与している.
     誌上報告されている経鼻胃管症候群39例をまとめたところ, 主要兆候とされる咽頭痛が経鼻胃管症候群の診断契機となったものは3例と少なく, 多くの症例で吸気性喘鳴や呼吸困難, 酸素飽和度の低下, 喀痰喀出困難などの気道クリアランス低下症状が診断の契機となっていた. 経鼻胃管挿入と経鼻胃管症候群発症までの時間的関係は明らかではなく, 経鼻胃管のサイズと経鼻胃管症候群発症の関連も明らかではなかった.
     経鼻胃管挿入後に遷延する咽頭痛や新たに出現した吸気性喘鳴, 呼吸困難, 嚥下障害, 喀痰喀出困難などの気道クリアランス低下症状は, 経鼻胃管症候群を強く疑う所見であり, 速やかに喉頭内視鏡を行う必要がある. 喉頭内視鏡で披裂部の浮腫や声帯外転麻痺を認める場合には経鼻胃管を抜去し, 必要に応じて適切な気道管理を行う必要がある.
症例報告
  • 金村 剛宗, 池田 寿昭, 小谷 穣治, 庄子 諒一, 松永 恭輔, 佐野 秀史, 弦切 純也
    2025 年39 巻 p. 22-26
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル フリー
     40歳女性. 上半身発疹が見られ, アナフィラキシーで前医入院となるも, 翌日, ショックとなった. 月経中でタンポン使用歴がありToxic shock syndrome (TSS) 疑いで当院転院となった. 抗菌薬 (メロペネム, バンコマイシン, クリンダマイシン) を投与し, ショックに対して大量輸液, ノルアドレナリン, ヒドロコルチゾン, ピトレシン投与するも, ショックは遷延した. ショック離脱目的にポリミキシンpolymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion (PMX-DHP) を実施後, 血圧は上昇した. 膣培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌 (MSSA) が検出された.
     本症例を通じて,PMX-DHPがTSSにおけるショックの早期離脱に寄与し得る可能性が示唆された.PMX-DHPは主にエンドトキシン除去が目的であるが,抗菌薬効果がただちに発揮しにくいTSSの重症例では,炎症性サイトカイン抑制を介して有効に作用する可能性が考えられる.
症例報告
  • 石津 啓介, 苛原 隆之, 久下 祐史, 勝木 竜介, 寺島 嗣明, 津田 雅庸, 渡邉 栄三
    2025 年39 巻 p. 27-30
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
     DIC・多臓器不全を伴うⅣ度熱中症の症例を集学的治療で救命し得たので報告する. 患者は42歳男性, 某年6月真夏日の日中, COの配管修理中の意識障害でドクターヘリが要請された. 接触時より高度意識障害を認めSpCO 10%であったため, 気管挿管し搬送した. 来院後の血液ガス分析ではCO-Hbは検出されず, 膀胱温が40度を超えていたため, 病態の主座は熱中症と判断し, 体表冷却, 胃洗浄, 透析回路を用いた体外循環などで冷却した. 急性期DICスコアは6点で, トロンボモデュリン製剤, FFPの投与, サイトカイン除去を目的にCHDFを開始した. APACHEⅡスコアは35であった. 翌日DICが進行し, アンチトロンビン製剤, 血小板輸血を開始した. 以上, 集学的治療が奏功し, 第9病日に抜管, 第12病日にICU退室, 第26病日に血液浄化法を終了した. 歩行器での歩行が可能となるも, 小脳失調, 高次機能障害が残存し, 回復期病院へ転院となった.
症例報告
  • 稲田 雅美, 大野 雄康, 山田 勇, 小谷 穣治
    2025 年39 巻 p. 31-38
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/13
    ジャーナル フリー
     眼窩内異物は, 眼球損傷や眼窩内感染などが懸念される, 注意を要する疾患である. 今回木片異物が左上眼瞼部より左前頭洞へ貫通し, 外傷性白内障を発症した一例を報告する. 81歳男性が自宅階段から転落し, 階下に置いてあった木箱が粉砕し木片が左上眼瞼部に刺入した. CTおよびMRIで左眼窩外側からに眼窩上壁を貫通し, 左前頭洞に到達する異物を認めた. 眼球損傷は認めなかった. 本症例は右高眼圧症で眼科通院歴があり, 受傷1週間前の左眼圧は19mmHg, 左視力は0.4であった. 受傷後の左眼圧は37.4mmHgであり, 異物除去により16mmHgまで低下した. しかし外傷性白内障を発症し左視力は0.03まで低下した. 感染兆候なく術後9日に退院した. 本症例の外傷性白内障は, 眼窩内木片異物によるひずみにより, 赤道部方向に水晶体が引き伸ばされた結果発症したと推察する. 本症例のように, 眼窩内異物ではたとえ眼球損傷がなくても, 間接機序により視力低下を来すことがあるため, 注意が必要である.
症例報告
  • 松尾 健志, 西村 哲郎, 溝端 康光
    2025 年39 巻 p. 39-43
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル フリー
     患者は30歳代女性. 自殺目的にアモキサピンを大量内服し当院へ搬送された. 内服量は5,000 mgであり致死量に達していた. 来院時, pH 6.399の混合性アシドーシスを呈していた. 痙攣が断続的に出現し止痙に至るまで難渋した. 第二世代三環系抗うつ薬中毒は, 痙攣重積や代謝性アシドーシス等の致死的な症状を呈し, 救命しえたとしても高次脳機能障害といった神経学的後遺症が残った過去の報告が散見される. 本例は検索し得た限り最も高度の混合性アシドーシスを呈していたが神経学的後遺症を残さず救命しえた. 人工呼吸器管理にて呼吸性アシドーシスを是正した. 抗痙攣治療にチオペンタールや再発予防に脂肪乳剤を投与した. また, 痙攣が断続的であったことが神経学的後遺症を残さなかった要因の一つと考えられた. 呼吸性アシドーシス是正のために呼吸管理を含めた全身管理を速やかに開始し, 抗痙攣治療に努め, 乳酸値の上昇を防ぎ, 代謝性アシドーシスを改善させることが救命のために重要である.
症例報告
  • 菊池 仁, 佐竹 幸輝, 安藤 尊康, 平湯 恒久, 鍋田 雅和, 高須 修, 森岡 基浩
    2025 年39 巻 p. 44-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    ジャーナル フリー
     Andexanet alfaは生命を脅かす出血または止血困難な出血の発現時に抗凝固作用を中和すべく使用されるが, 血栓合併症が報告されている. 今回Andexanet alfa使用後に脳梗塞を発症した多発外傷の症例を経験したので報告する. 症例は83歳男性. 直接作用型第Xa因子阻害剤を内服中で, 作業中に誤って高所より転落し, 受傷した. 精査で造影剤漏出像を伴う左急性硬膜下血腫, また右腸腰筋内に造影剤漏出像を伴う血腫を認めた. 血腫増大リスクが高いと判断しAndexanet alfaを投与した. 右腸腰筋内の出血には動脈塞栓術を施行し止血を得た. 術後血腫の増大は認めなかったが, 受傷翌日の頭部CTで多発性脳梗塞を認め, 意識障害は遷延化した. 脳梗塞の原因は, 中和剤の使用によるもの, 外傷による凝固系活性に伴う血栓形成などが考えられた. Andexanet alfaは止血効果がある一方で, 血栓合併症をきたす可能性があるため, 投与においてはベネフィットリスクバランスを考慮し, 適応症例を慎重に判断する必要がある.
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