日本救命医療学会雑誌
Online ISSN : 2758-1055
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巻頭言
症例報告
  • 国武 和也, 鍋田 雅和, 金苗 幹典, 後藤 雅史, 平湯 恒久, 福田 理史, 高須 修
    2026 年40 巻 p. 1-5
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/15
    ジャーナル フリー
     症例は72歳の男性. 竹林でスズメバチに全身を約90ヵ所刺され, 近医へ救急搬送された. 翌日の血液検査で血小板減少と肝障害, 腎障害の進行, さらに高CK血症を認めたため, 加療目的に当院へ転院となった. 搬入時, 意識障害と頻呼吸, 頻脈を呈しており, 体幹部・四肢には周囲に発赤を伴い, 中心部に壊死を伴った多数の刺傷痕を認めた. 蜂毒による多臓器障害と診断し, 人工呼吸器管理とDIC治療, 血漿交換を行った. 3回の血漿交換によりSOFA scoreおよびCKの経時的な改善を認めた. 意識状態が改善したことから第8病日に人工呼吸器管理を離脱し, 第39病日に維持透析導入目的に一般病棟へ転棟となった. 多数の蜂刺傷による死亡例の報告は散見されるが, これに対する明確な治療指針は示されていない. 多数の蜂刺傷を認め蜂毒による臓器障害, 重症化が予測される場合には, 早期に血漿交換を軸とした積極的治療介入を行うことが予後改善に必要である.
論説
  • 大野 雄康
    2026 年40 巻 p. 6-18
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/06/22
    ジャーナル フリー
     救急・集中治療現場の最前線で, 読者の多くは日常的に重症患者を診療し, 過大な侵襲がヒトに加わった時, どのような生体反応が起き, どのような転帰をたどるのか肌感覚で理解していることだろう. このように, 自らの診療経験に裏打ちされた深く正確な病態理解があり, さらに臨床現場のneedsは何かを把握している事が, 医師研究者 (physician-scientist) の強みである. たとえば実際の敗血症患者の診療経験があれば, 敗血症モデルマウス等から得られたデータの解釈に深みが出る. さらに研究成果を臨床現場にどのように還元していくべきか, 現実に即した提案ができる. 臨床現場で出会う「?」 (research question) を「!」 (新知見) につなげるには, physician-scientistが持つ, このような強みを生かす必要がある.
     「?」を「!」につなげる確率を最大化するために, 「自らの可能性を最大化する場にタイムリーに身を置く」ことが重要である. 良い研究をするには実験結果を絶えずdiscussionし, 切磋琢磨できる仲間が必要である. また, 研究を行うには, それにふさわしい研究設備や研究費が必要である. あなたの職場にはこれらヒト, モノ, カネのリソースがあり, あなたの可能性を最大化してくれる「装置」になっているだろうか?
     また, 研究成果は論文として発表しなければならない. 論文を掲載し続けるには, 多くの時間と労力を研究活動に注ぎ込む必要がある. そのためには「研究を習慣化」し, 研究活動に付随する誘惑, 不安, 恐れに打ち克つ「精神的頑健性」を身につける必要がある. そのためには「努力の源泉」が必要である. 「努力の源泉」は, 「あなたはなぜ研究するのか?」という問いの答えに該当する.
     本稿では筆者の経験をふまえ, 救急・集中治療の臨床現場で出会う「?」を「!」につなげるヒントを提供する.
症例報告
  • 勝木 竜介, 津田 雅庸, 苛原 隆之, 甲斐 貴之, 大石 大, 寺島 嗣明, 渡邉 栄三
    2026 年40 巻 p. 19-23
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/14
    ジャーナル フリー
     外傷性循環破綻に対し, 病院前蘇生的開胸術の適応判断基準は未確立である. 今回, 頸動脈触知を指標として病院前での開胸を回避し, permissive hypotensionによる迅速搬送および来院直後の蘇生的開胸術施行により良好な転帰を得た一例を報告する. 症例は60代の男性である. 交通事故によりショック状態となった. ドクターヘリ到着時, 頸動脈触知可能であったため, 輸液とノルアドレナリンの単回静注の反復投与で循環を維持し, 受傷68分後に搬入した. 直ちに蘇生的開胸と大動脈遮断を施行し, 続いて気管挿管と開腹術を施行した. 腸間膜, 肺, 左心室壁の損傷を修復した. 術中に18分間の心停止を認めたが, 大動脈遮断時間は28分に留まった. 第13病日に意識清明となり, 第91病日にリハビリテーション目的で転院した. 頸動脈触知を指標とした病院前開胸の回避とpermissive hypotensionは, 導入時の循環虚脱を避けつつ, 大動脈遮断時間を短縮し得る根治的止血への有効な橋渡し戦略と考えられた.
  • 山口 泰幸, 山本 幸治, 木下 有紗, 鶴田 啓亮, 淺井 英樹, 川井 廉之, 福島 英賢
    2026 年40 巻 p. 24-27
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/14
    ジャーナル フリー
    来院時, 糖尿病の既往は判明していたが, 内服歴が不明であり, かつ前医からの診療情報提供書も入手困難であったため診断に難渋したが, 静脈-動脈血二酸化炭素分圧較差測定からメトホルミン関連乳酸アシドーシスを疑い, 血液浄化療法の導入で救命した1例を経験したため報告する. 71歳女性. X日, 意識障害にて救急搬送された. 来院時, Glasgow Coma Scale E4V1M5で直腸温28.7℃, 血清乳酸値 23mmol/Lと著明な乳酸アシドーシスを認めた. CT検査では明らかな異常所見はなく, 偶発性低体温症の診断でICU入室となった. ICU入室後も乳酸アシドーシスは改善せず静脈-動脈血二酸化炭素分圧較差を測定したところ開大は認めず, メトホルミン関連乳酸アシドーシスを疑って血液透析を導入したところ乳酸値は著減した. その後メトホルミンの内服歴が確認された. 内服歴が不明であった本症例では静脈-動脈血二酸化炭素分圧較差の評価が有用であった.
総説
  • ―個別化人工呼吸管理とECMO戦略―
    錦見 満暁, 渡邉 栄三
    2026 年40 巻 p. 28-33
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル フリー
     急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome : ARDS) は, 高い死亡率を伴う集中治療領域の代表的な急性呼吸不全であり, その診断および治療戦略は近年大きく変化している. 2024年には新定義 (New Global Definition) が提唱され, 従来のベルリン定義と比較して診断対象が拡大し, 非侵襲的呼吸補助下の症例や肺エコーを用いた評価も診断に含まれるようになった.
     一方で, ARDSは極めて不均一な病態であり, 定義に基づく診断のみならず, 病態生理を踏まえた個別評価が重要である. 電気インピーダンス・トモグラフィ (EIT) や胸部CTを用いた肺リクルータビリティや線維化の評価により, PEEP設定を含めた個別化治療 (precision critical care) の実現が期待されている.
     さらに, 重症例ではV-V ECMOが有効な治療選択肢となるが, その適応は人工呼吸期間のみならず, 肺病変の可逆性を考慮して個別に判断することが重要である.
     本稿では, ARDS診療に関する最新の知見を概説するとともに, 病態に応じた人工呼吸管理およびECMO戦略について解説する.
  • 横堀 將司
    2026 年40 巻 p. 34-42
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル フリー
     頭部外傷患者の転帰は依然不良である. 頭部外傷は若年者の死亡原因の主因であるとされており, その損失は医療のみならず社会的かつ経済的問題とも捉えられる. 頭部外傷の形態は大きく, びまん性脳損傷と局所性脳損傷に分けられる. それぞれに適切な治療を選択するよう, 治療の標準化が進んでいる. また, 頭部外傷の病態は大きく一次性脳損傷と二次性脳損傷に分けられる. 二次的脳損傷は, 頭部外傷受傷後に全身性因子や頭蓋内因子の増悪により付加的に生じる脳損傷である. 受傷のインパクトにより重症度が決まってしまう一次的脳損傷とは異なり神経集中治療にて予防や軽減しうるものである. それぞれの病態に対して適切なモニタリングを用い, 治療のタイミングを逃さないことが肝要である. また近年では, スポーツ人口の増加などによる脳振盪への社会的関心も高く, 臨床家には適切な対応が求められている. 本稿は頭部外傷の基本的病型とそれに対する治療, 頭蓋内圧管理を中心とした周術期管理の要点についてエビデンスを基に概説する.
  • ―生体肝移植に伴う社会的・倫理的課題を含めて―
    小谷 穣治
    2026 年40 巻 p. 43-52
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル フリー
     急性肝不全は, 急速に肝機能障害が進行し, 高度の凝固異常や肝性脳症を呈する致死率の高い病態である. 肝臓は糖質, 脂質, 蛋白質代謝の中心臓器であり, 急性肝不全ではこれらの代謝経路が同時に障害される. 特に, 高アミノ酸血症, 高アンモニア血症, 糖利用障害, 乳酸代謝障害, 脂肪酸β酸化障害, ケトン体産生低下などが生じ, 栄養療法においては単に必要エネルギー量を満たすのではなく, 障害された代謝経路に過剰な負荷をかけない個別化管理が求められる. 一方, 急性肝不全では肝再生が期待できない場合に肝移植が唯一の根治療法となるが, 本邦では生体肝移植が重要な選択肢となる. 生体肝移植では, 健康な家族に侵襲を伴うドナー手術を求めるため, 医学的適応のみならず, 家族関係や心理的・社会的背景への配慮が不可欠である. 本稿では, 急性肝不全の代謝異常と栄養管理について概説するとともに, 臓器提供意思が愛情の尺度となった症例, および臓器提供が経済的価値と結びついた症例を提示し, 生体肝移植に伴う社会的・倫理的課題について考察する. 急性肝不全診療では, 肝再生を支える集中治療と代謝動態に応じた栄養管理に加え, 患者と家族全体を支える包括的な医療体制の構築が重要である.
  • ―2023〜2026年の最新知見に基づく統合的理解―
    垣花 泰之
    2026 年40 巻 p. 53-60
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル フリー
     敗血症性心筋障害 (sepsis-induced myocardial dysfunction: SIMD)は, 敗血症に伴う急性心機能障害であり, 近年では単なる左室収縮機能障害ではなく, 左室拡張機能障害, 右室機能障害, 血管拡張, 頻脈などを含む多様な循環障害として理解されている. 病態には, 炎症性サイトカイン, 酸化ストレス, ミトコンドリア機能障害, Ca2+ハンドリング異常, β受容体シグナル障害, 微小循環障害などが複雑に関与する. 特に敗血症では後負荷低下により左室駆出率 (LVEF) が保たれることがあり, LVEFのみではSIMDを十分に評価できない. 近年は, speckle tracking echocardiography (STE) やglobal longitudinal strain(GLS) を用いた早期診断が注目されているが, 左室拡張機能障害や右室機能障害の重要性も再認識されている. 治療では, 感染制御, 循環蘇生, 血管作動薬, 呼吸管理を基本とし, 心エコーによるフェノタイプ評価に基づいた個別化治療が重要である. ドブタミン, PDE3阻害薬, levosimendan, β遮断薬などは特定の病態で有用な可能性があるが, routine使用を支持する十分なエビデンスはない. 近年は, 右室―肺動脈カップリング, RNA修飾, フェロトーシス, ミトコンドリア標的治療なども注目されている. 今後は, 単回評価ではなく, 時間経過に沿って病態を繰り返し評価する「動的フェノタイピング」に基づく個別化循環管理が重要になると考えられる.
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