2025 年 6 巻 2 号 p. 85-94
橋梁ケーブルの維持管理においては,高速フーリエ変換(FFT)を用いて得られた固有振動特性から間接的に張力を推定する手法が広く採用されている.しかし,信頼性の高いケーブルの維持管理を実現するためには,固有振動特性の推定精度の向上が不可欠であり,そのためには適切な推定手法の選定が求められる.本研究では,構造物の応答データのみを用いて固有振動特性を推定するFDD(Frequency Domain Decomposition)法に着目し,FFT法との比較を通じてその推定精度を検証した.ケーブル模型実験に基づく検証の結果,特に高次モードにおいてFDD 法の方がモード形状の推定精度が高いことが確認された.さらに,推定された固有振動特性を用いてケーブルの張力および曲げ剛性を推定し,真値および設計値との比較を行った結果,FDD法による推定の方が張力および曲げ剛性の推定精度に優れることが確認された.これらの結果から,FFT法に代わりFDD法を用いることで,ケーブルの固有振動特性の推定精度が向上し,ひいてはケーブル諸元の推定精度の向上が期待できることが確認された.