抄録
大都市圏には, 災害に対して非常に脆弱な地区が存在している. それらの地区は都心部に在り, 潜在的には都市開発による高い収益が期待できるにもかかわらず, 個々の区画は建物への建替えが依然として進まず, 都市防災上は大きな問題の一つとなっている. 本稿は経済動学の分野で開発されてきた投資タイミングモデルを発展させて, 災害脆弱地区の開発が進行しないメカニズムを描写するモデルを提示し, それに基づいて災害脆弱地区の都市整備を促進する施策の効果を分析する. また, 便益帰着構成表アプローチを用いて, 社会的純便益が建物利用者の享受する防災機能の向上から区画所有者が負担する建設費用と営業費用を差し引いたものであり, 開発タイミングが便益の大きさを規定することを示す.