2021 年 77 巻 1 号 p. 96-114
橋梁は多様な部材によって階層的に構成された複雑な構造システムである.したがって,ある部材の劣化が他の部材の劣化過程に影響を与えるような部材間の関連性を考慮した上で,点検や補修のタイミングを決定する必要がある.本研究では,伸縮装置からの漏水に起因した鋼桁端部の腐食過程に着目する.具体的には,伸縮装置からの漏水の有無に応じて2種類の状態モードを定義し,モードごとに設定したハザード関数を有するスイッチング型のマルコフ劣化ハザードモデルにより鋼桁端部の腐食過程を表現する.同モデルを実データを用いて推定し,漏水の有無による鋼桁端部の腐食進展速度の相違を検証するとともに,伸縮装置止水材の予防保全により,鋼桁端部の腐食進展の抑制と,橋梁全体のライフサイクル費用の低減が可能であることを示す.