2012 年 68 巻 5 号 p. I_227-I_236
本論文では気候変化による作物収量変化が,食料消費,飢餓,マクロ経済に対してどの程度影響するのかを分析する.将来の社会経済条件の違い,気候条件や適応策の取り方などの諸条件をシナリオとして与え,これらを比較することで気候変化によってもたらされる農業部門への影響を総合的に解析する.分析には世界経済モデルと作物モデルを用いる.社会経済条件,農業に強く関連する事象としてシナリオで考慮するのは,人口,GDP,作物収量(気候変化の影響と適応策の効果を考慮)とした.結果は以下のことを示唆する.社会経済条件は栄養不足人口や食料消費にとって大きな因子である.気候影響は適応策を適切に実施する場合栄養不足人口に対して軽微な影響であるが,適応策を適切に実施できない場合大きな影響を持つ.また,作物収量変化によるGDP損失は比較的小さいことが明らかとなった.