抄録
近年,送配水システムの資産管理をより合理化するためにライフサイクルアセスメント(LCA)の概念を応用したシステム最適化が行われる事例が増えてきたが,その結果を大きく左右する社会的割引率(SDR)の在り方についてこれまで十分な議論がなされてこなかった.そこで本研究は,SDR見直しの方向性を確立するとともに今後の関連研究が解決すべき課題を明らかにすることを目的に既往研究の現在価値化の適用事例及び理論の整理と送水システムを対象としたLCAへのSDRの感度分析を行った.事例整理と感度分析を通して,(1)実勢の利回り及び対象国債の償還年限と現行のSDRの乖離,(2)温室効果ガス排出への減価償却の適用は不適切である,(3)相対的に高いSDRの維持による将来世代との不公平の拡大,の3点を指摘した.また,今後のSDRの見直しの方向性として対象とする国債の償還年限の長期化とともに40年以上のSDRには逓減型SDRの概念を適用することを提案した.