抄録
近年,国内外において持続可能な開発や,自然生態系を活用した多機能な社会資本整備が重要視されており,これらの実現に向けて動植物への保全措置のより一層の充実が望まれている.そこで本研究では,動植物に関する調査や環境保全措置が実施されている全国の国直轄の道路事業417事例に着目し,動植物への保全措置の充実に向けた基礎的研究として,動植物保全における現状と課題を分析した.その結果,調査の段階では,猛禽類がやや多いものの,各分類群でほぼ一様に調査が実施されていた.一方,それらの調査結果を踏まえて環境保全措置の対象とされる分類群は,猛禽類と植物が非常に多くなっていた.特に保全対象となりやすい種の上位は,全国的にオオタカ,クマタカ,サシバ等の猛禽類が占め,その他にはエビネ,キンラン,ギンラン等のラン科の植物が多く見られた.なお環境保全措置の対象種数は,地域によってばらつきがみられた.環境保全措置後のモニタリングは,1~2年程度実施される例が多く,鳥類(猛禽類を含む)や植物では比較的長く実施される傾向があった.また,地域協働による継続的な環境保全に努めている事例もわずかに見られた.