2021 年 77 巻 7 号 p. III_1-III_10
本研究では農畜産業が盛んな岩手県軽米地域を流れる雪谷川と瀬月内川を対象に底生動物と有機物の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を用いて,流域内の人為的な栄養塩負荷が河川生態系に及ぼす影響を評価した.δ13C・δ15Nの結果から,瀬月内川上流を除く地点で人為的な栄養塩負荷の影響が推察された.δ13Cによる餌起源推定の結果,付着藻類が底生動物の主な餌資源として利用され,付着藻類のδ15Nと各摂食機能群のδ15Nとの関係から,調査河川では付着藻類を基盤とする食物網が構築されていることが示唆された.したがって,人為的な栄養塩負荷の影響は付着藻類や付着藻類由来の微粒状有機物を介して底生動物へ伝播し,この影響はダム湖の富栄養化を介してダム下流まで波及していることが推察された.