抄録
本研究では,Odumによる溶存酸素の収支を利用した河川生態系の代謝構造モデルを援用し,流れ込み式発電システムを有する山地渓流の代謝動態を記述することを目的とした.夏季から冬季にわたる長期の溶存酸素濃度の連続観測により,取水堰堤上下流における群集呼吸速度,付着藻類による一次生産速度を比較・考察する一方,水位・水質変動の同時期記録を用いて現象記述を試みた.
上下流に位置する2つの取水堰を有する山地渓流を対象とした調査により,流込み式発電堰堤の下流では,取水比流量に応じて「瀬切れ」の消長が異なること,瀬切れが生じる低水期には伏流水の寄与が高まって溶存物質濃度が上昇し,特異な表流水質が形成される可能性が示された.さらに,藻類を始めとする付着生物膜量に応じて,水質とともに生産・呼吸などの代謝特性が日周性を伴いながら季節的に変化すること,低水期の堰堤下流ではその変動が特に大きくなることが明らかになった.