抄録
江戸市街地を水害から守るために17世紀初頭に設置された日本堤の水理機能を,氾濫数値シミュレーションにより検討した.江戸時代の地形条件および水文条件に関する数値データは存在しないので,堤防高と氾濫原地形を明治42年の測量図をもとに作成し,洪水波形は明治44年の全国直轄河川治水計画における荒川計画流量と水文水質データベースに掲載されている2007年9月洪水の観測結果を組み合わせて3種類設定した.シミュレーション結果によれば,従来考えられていた上流低地の遊水量は意外に小さく,日本堤での塞き上げに伴う下流水面勾配増大による隅田川下流への流量増と,綾瀬川合流部を経由した中川低地水田地帯への氾濫水誘導が日本堤の主たる機能であると考えられた.また,このような“水の逃げ道を考慮した遊水機能”により.日本堤の越水破堤の危険性は小さかったものと考えられる.