抄録
洪水・渇水などの水文学的事象は河川生態系にとって重要な環境要因であり,このような事象の発生時期は生物の生活史と関連し,河川の生物多様性とも関係があると考えられる.本研究は循環統計を用いて,世界の59の河川における流域規模の魚種種数と洪水・渇水の発生タイミングとの関係を評価することを目的とした.その結果,大・中規模洪水の周期性は面積当たりの在来種魚類種数と有意な上に凸の単峰型の傾向が見受けられ,中規模かく乱仮説を支持していた.また,小規模洪水の周期性には,面積当たりの在来種魚類種数と有意な負の相関が確認された.小規模洪水の発生における高い周期性は,限られたタイミングで氾濫原を利用する魚類群内の競争を増加させ,低い周期性は幅広いタイミングで氾濫原を利用する機会を提供していると考えられる.