土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
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74 巻, 4 号
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水工学論文集第62巻
  • 菅原 快斗, 佐山 敬洋, 寶 馨
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     近年の森林水文観測研究は,風化基岩を流れる山体地下水が河川の流出にも強く影響していることを明らかにしてきた.それらの観測知見に基づき,最近では基岩の地下水流出を再現する分布型流出モデルも開発されているものの,山体地下の不飽和部について簡潔にモデル化する試みは十分に進んでいない.本研究は分布型流出モデルの山体地下に適するリチャーズ式の解析解を導出した.特に基岩上部の土壌水分量が変化し,不飽和部の下部には山体地下水が存在することを想定して,任意の水分量境界,初期条件を設定できるようにした.また導出した解析解を用いて,表層土壌と基岩を連結した鉛直一次元解析を実行し,時間的に変化する境界条件を入力した挙動を分析した.
  • 齋藤 雅彦, 増田 竜士
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     豪雨時の斜面崩壊の誘因となる地盤内の水分量や水位・水圧分布については,浸透流解析による予測/推定がある程度可能であるが,通常は地盤物性値等は空間的に均一と仮定され,実際の斜面に見られる不均一性は考慮されない.本研究では,透水係数の空間分布モデルを用いて疑似的にばらつきと偏りのある不均一斜面を生成し,気液2相流解析によって間隙空気を考慮した豪雨時の斜面内浸透流の性質について検討した.その結果,均一場を仮定することによって斜面内の間隙水圧を過小評価する可能性があること,また,間隙空気の影響は,不均一場でより大きくなる可能性があることを示した.
  • 笹井 友司, 西垣 誠, 西山 哲
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     各地で集中豪雨による斜面崩壊が多発する中,現状の設計実務や各種研究の多くが,降雨浸透問題には二次元FEM飽和・不飽和非定常浸透流解析,斜面安定問題には二次元極限平衡法が用いられている.また,浸透流解析で得られる不飽和域の浸透水圧は,斜面安定性評価に考慮されていない.そこで本研究は,マサ土斜面の簡易モデルを用いて,せん断強度低減法による二次元浸透-応力連成解析を行い,不飽和域の浸透水圧や集中豪雨が斜面の安定性に及ぼす影響検討を行った.また,極限平衡法による安全率との比較により,従来法の適用性検証を行った.不飽和域の浸透水圧や集中豪雨の影響により,従来法の適用性が低いケースがあることを示した.
  • 中川 啓, 天野 弘基, 齋藤 雅彦
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     数値計算により地下水汚染等について検討する場合,透水係数や分散係数といった水理パラメータの設定が重要である.本研究では,硝酸性窒素による地下水汚染の生じている現場において,単孔式の多深度希釈試験を適用し,地下水の実流速や透水係数,分散係数を評価した.さらに,現場で得られた情報をもとに人工的に発生させた不均一場に対して単孔式の多深度希釈試験について3次元の数値計算を実施した.その結果,不均一性を考慮することで,現場で得られたトレーサー濃度低減の様子を再現できる可能性があることが分かった.
  • 井上 一哉, 濱田 莉菜子, 小林 晃
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,地下ダム貯水湖内の溶質輸送特性を検討するため,高さ80cm,幅200 cm,奥行き3 cmのラボレベル溶質輸送実験を実施した.透水係数の異なる土質試料により帯水層と地下ダム止水壁,難透水性基盤を模擬し,色素水溶液とNaClを添加した色素水溶液を用いて溶質輸送現象に及ぼす比重の影響を定量化した.画像解析と空間モーメント法を応用し,溶質輸送現象を定量化した結果,地下ダム湖内の溶質は止水壁を越流,あるいは通過して流下することが確認された.また移流分散過程において,止水壁の上流側では溶質の鉛直方向の伸びが促進される点と比重の大きい溶質は鉛直方向の分布拡大を示す点を定量化することができた.
  • Luis ALFARO, Eiji HARAMOTO, Yasushi SAKAMOTO
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     A laboratory-scale experiment measuring the infiltration of Escherichia coli into saturated soils was performed under constant temperatures. Three soil columns were prepared with loamy clay soil using the wet packing method: Column A consisted of a 15-cm soil column with a water head of 5 cm above the soil surface, whereas Columns B and C had a soil column of 10 cm with a water head of 10 cm above the soil surface. Columns A and B were inoculated with autoclaved ultrapure water containing 7.4 × 107 colony-forming units/mL of E. coli K12 for 450 and 180 h respectively. Column C was inoculated only with autoclaved ultrapure water and served as an experimental control. Column A presented a steady decrease in infiltration rate, which showed a strong correlation (correlation coefficient = –0.93) with the amount of E. coli accumulated in the soil (clogging). Column B first presented similar results to Column A; however, after eight pore volumes were flushed, the infiltration rate increased rapidly, doubling the initial infiltration rate prior to E. coli inoculation. It is proposed that heterogeneous accumulation and growth of E. coli in the soil led to increased infiltration rate. In Column C, the infiltration rate decreased from 27.7 to 24.0 mL/h over the duration of the experiment, despite not having any other input than autoclaved ultrapure water. Additionally, the measurements of E. coli at the output of the soil columns were compared using spectrometry, plate counts, and quantitative polymerase chain reaction measurements. The results indicated that spectrometry was the most suitable method for determining breakthrough curves in soil infiltration experiments.
  • 松浦 拓哉, 手計 太一, 冨樫 聡, 緒方 陸
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,分布型水収支モデルを用いて土地利用変化と気候変化が富山県域の水資源量に与えた影響を明らかにすることである.1977年から2014までの7時期の土地利用データ,気象庁メッシュ気候値2000と2010を利用した.モデルの妥当性を評価するために,上流域に水工施設のない黒薙観測所と蓮沼観測所を選択し,河川流量の観測値と解析値を比較した.その結果,概ね観測値を再現できていた.
     土地利用変化を考慮した水収支解析の結果,経年的に地下浸透量が減少し,表面流出量が増加する傾向が得られた.これは,水田が減少し,不浸透域の増加が要因であった.気候変化を考慮した水収支解析の結果,降水量の減少に伴い,水資源賦存量が減少することが明らかになった.土地利用変化と気候変化を比較すると,土地利用変化による水資源への影響が極めて大きいことがわかった.
  • 大屋 祐太, 北野 慈和, グエン レ ズン , 山田 朋人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     北海道において線状降水帯による豪雨災害は近年増加しており,代表的な例として2014年9月に同地域で初めて大雨特別警報が発生した事例が挙げられる.本研究では,線状降水帯を形成する複数の積乱雲内の風速場を詳細に解析するため,上記事例にドップラーレーダのドップラー速度を用いた三次元風速場推定手法(the Multiple-doppler Synthesis and Conitinuity Adjustment Technique, MUSCAT法)を適用した.線状降水帯の一部では高さ6km付近において線状降水帯に直交する流入風による鉛直循環構造が見られ,流入風の風下側では強い反射強度が対流圏上層まで到達するという特徴を得た.これらの特徴は,2015年9月に鬼怒川流域で発生した平成27年の関東・東北豪雨の線状降水帯においても観察された.
  • 小川 まり子, 大石 哲, 鈴木 賢士, 中川 勝広, 山口 弘誠, 中北 英一
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     ビデオゾンデの捕捉効率の定量的な評価を行うため,沖縄本島で実施された梅雨集中観測におけるビデオゾンデ,ディスドロメータ,偏波レーダーのデータをもとに,高度2500m以下のビデオゾンデ観測データを対象として,地上に設置したディスドロメータによる粒径分布が上空でも適用できると仮定し,参照値として用いることによって捕捉効率を評価した.時間・空間・事例の違いによる雨滴粒径分布の変化が小さいとき,捕捉効率のばらつきが粒径分布パラメータの推定に必要なビデオゾンデの粒子サンプル数と粒径分布パラメータの推定結果のばらつきに及ぼす影響を乱数実験により評価した.
     粒径が0.5-2.4 mmのとき捕捉効率の50パーセンタイル値は約0.2であった.粒径が1.5 mm以上のとき捕捉効率の変動が大きくなった.粒径分布の形状パラメータ推定のため,100個以上のビデオゾンデの粒子サンプル数が必要であることが示された.大きい粒径クラスに対する最適な捕捉効率が明らかになれば,ビデオゾンデ観測から上空の雨滴粒径分布の推定を行うことができる可能性があることが分かった.
  • 中北 英一, 新保 友啓, 佐藤 悠人, 山口 弘誠, 大東 忠保
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     温暖化や都市化の影響により局地的豪雨の発生回数が増加傾向にあることが指摘されている.これに対して,Xバンドレーダーの立体観測により局地的豪雨の発生を早期に探知できること,発達する積乱雲はドップラー風速を用いて算出される鉛直渦度の値が大きいことが示されている.これを応用した局地的豪雨探知システムの利用が始まっているが,精度向上が課題であり,積乱雲発生メカニズムの解明による精度向上が図られている.本研究では,Xバンドレーダーに比べ小さな粒子に感度が高く積乱雲の発生段階を捉えられるKaバンドレーダーを用いて,先行探知時間の検証に加えて,ドップラー風速を利用して発達の特徴を捉えるとされる渦度に関する解析を行った.その結果12事例中11事例で早期探知できることを追認し,統計的に求めた対流性の特徴を示す渦度の閾値を用いて渦度の探知時刻を比較しKaバンドレーダーでも早期に渦度を探知できることを示し危険性予測の可能性を示唆した.さらに,渦度が鉛直に連なる構造を1事例で確認し降水粒子生成前における渦管構造の存在を示唆する結果を得た.
  • 山口 弘誠, 上嶋 一樹, 堀池 洋祐, 中北 英一
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     ゲリラ豪雨の降水予測精度の向上と積乱雲発達メカニズムを解明することを目的として,降水より前の積乱雲発達初期情報である雲情報のデータ同化実験を行った.雲解像データ同化システムCReSS-LETKFを用いて,観測シミュレーション実験(OSSE)という理想実験の枠組みで,静止気象衛星ひまわり8号を想定した雲頂温度(CTT),およびKaバンドレーダーを想定した雲水混合比qcを擬似的に作成し,データ同化による影響を評価した.CTTを同化すると雲頂部における温位と上昇流の負の誤差相関構造が再現され,降雨開始時刻の予測精度が向上した.qcを同化すると対流性のコア部におけるqcと温位および上昇流の正の誤差相関構造が再現され,地上降雨強度のピークの予測精度が向上した.またCTTとqcをともに同化することによってさらなる予測精度向上の可能性も示された.
  • Thi Hieu BUI, Hiroshi ISHIDAIRA
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     Precipitation would be one of the most important inputs for rainfall-runoff (RR) simulations. Therefore, quantifying the Areal Mean Precipitation (AMP) error is important to give the guidance for improving the accuracy and robustness of RR models. Instead of using limited number of rain gauge measurements, satellite based precipitation data would be a surrogate data source. In this study, the capability of remote sensing precipitation including satellite-only GSMaP-MVK and satellite-gauge merged data to evaluate AMP uncertainty is investigated. The adjusted precipitation performances depend upon the number of blended rain gauges, which would not always give superior results than the original data GSMaP-MVK.
     In addition GSMaP-MVK would be one of the choices for precipitation data source to compute AMP error. Therefore, a map of potential AMP uncertainty in major rivers in Vietnam is produced and utilized for improvement of rain gauge network. In order to ensure the fidelity of stream-flow simulation, rain gauge networks in 10 river basins in Vietnam are suggested to be upgraded for a total of 18 rain gauges. The rain gauge network in three river basins in Central of Vietnam Thach Han, Tam Ky and Lai Giang should be given the highest priority, due to their relatively high AMP uncertainty.
  • Danang Dwi ADMOJO, Taichi TEBAKARI, Mamoru MIYAMOTO
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     The Integrated Flood Analysis Model (IFAS), a distributed hydrological model, developed by the International Center for Water Hazard and Risk Management (ICHARM) was utilized to assess runoff from a flood event using two satellite-based rainfall products: Global Satellite of Mapping Precipitation (GSMaP): Near Real Time (NRT) and Tropical Rainfall Measuring Mission (TRMM):3B42RT V7. The devastating Thailand flood of 2011 in the Upper Nan river basin (13,000 km2) was selected as a case study. The temporal and spatial distribution of the satellite rainfall products were statistically evaluated using volume bias, peak bias, root mean square error (RMSE), correlation coefficients (CCs), and the coefficient of determination (R2). The statistical performance of simulated flood runoff using the GSMaP NRT and 3B42RT rainfall products were also analyzed by the Nash–Sutcliffe efficiency index (NSE), CCs, and the RMSE. This study found that both satellite-based rainfall products demonstrated weak CCs and R2 values at most ground-based rain gauges with respect to daily rainfall intensity. Runoff simulation results from the IFAS model demonstrated better performance from the 3B42RT than the GSMaP NRT product (NSE: 0.79, CCs: 0.90, and RMSE: 18.03 mcm), despite the smaller pixel resolution of 3B42RT.
  • 下妻 達也, 瀬戸 心太
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     過去の強雨の再現期間計算や降水イベントシミュレーションのため,既往研究ではレーダアメダス解析雨量が用いられてきた.著者らはより時空間解像度の優れる地上レーダデータを用いることでさらに高解像度な面的降水量データが作成できると考え,地上レーダとして国土交通省の運用するXバンドMPレーダネットワーク(XRAIN)に着目したが,既往研究よりXRAINは山岳部やレーダサイト付近での過大評価の問題が指摘されている.そこで,全球降水観測計画(GPM)主衛星の二周波降水レーダ(DPR)のデータを使用してこれら問題について補正を行い,補正したデータよりモンテカルロシミュレーションによる豪雨イベント作成を行った.また,関東と九州北部エリアにて確率降水量と再現期間を計算した.
  • 増田 有俊, 板戸 昌子, 谷口 和哉, 境 和宏, 上田 博, 山下 克也, 中井 専人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     北陸地方ではXRAIN(XバンドMPレーダ 4基,CバンドMPレーダ 1基)による高精度の降雨観測が行われているが,降雪の場合は様々な課題があり,十分な精度は確保されていない.北陸地方整備局では、平成25年度から冬期の降水量推定精度向上に向けた取組を実施しており,XバンドMPレーダ雨量計を用いた降水粒子判別手法の精度は,地上観測と比較して7割程度であることが確認できた.また,CバンドMPレーダ雨量計を用いた粒子判別手法についても,Xバンドと同等の精度で判別できることがわかった.また,粒子別の雨量算定定数を同定し,粒子種別ごとに異なるZ-R関係式を得ることができた.
  • 日良 篤志, 田中 岳
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     積雪寒冷地における積雪期の降雨現象に着目し,北海道および新潟地方で稼働中のXバンドMPレーダの降雨推定精度について検討した.アメダス雨量を基準としたレーダ雨量の推定は過大評価になっていることが確認された.これを降雨強度別で見ると,積雪期の降雨として観測されるような弱雨時にはより過大に推定される傾向が顕著であった.一方,夏期洪水につながる強雨時については,レーダ雨量とアメダス雨量は同程度であり,推定誤差も弱雨時より小さいことが確認された.また積雪期と夏期に着目して雨量推定精度を比較すると,弱雨時,強雨時共にほぼ同程度であった地点もあるが,地点によって積雪期の方が過大に推定される傾向が見られた.
  • 米勢 嘉智, 河村 明, 戸野塚 章宏, 天口 英雄
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,神田川上流域における豪雨イベントを対象とし,XRAINや地上観測雨量データを用いて,流出モデルによる流出解析を実施し,計算流出ハイドログラフおける再現性(Reproducibility)を検証した.XRAINは詳細な空間分解能を有するものの,都市中小河川でそのまま流出計算に使用すると観測流量ハイドログラフの再現性が低下する場合があることを確認した.一方,高密度の地上観測雨量データを使用した場合,流出ハイドログラフの再現性は最も高いことがわかった.さらに,XRAINにおける時空間的な相関特性を考慮した補正を実施することで,単にXRAINをそのまま使用するよりも計算流出ハイドログラフの再現性の向上が可能であることを示した.
  • 牛山 朋來, 小池 俊雄
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     事前放流を含むダム操作の高度化により下流の公衆安全の確保と同時に,水資源の効率的利用を推進するための支援情報として,領域アンサンブル予測を開発し,予測実験を行った.対象としたのは,大井川と犀川の上流域である.アンサンブル予測は,7月~9月の3ヶ月間を2015~2017年の3年間について行ない,降水予測精度や,ダム操作における有用性について議論を行った.アンサンブル予測は確率情報を含むため,目的に応じた確率予測の利用を考案することができる.90パーセンタイル値など上位確率分布を用いると,公衆安全リスク回避を優先できる.一方,25パーセンタイルなど下位確率分布を用いると,豪雨予測の空振り率を低く抑え,水資源の減少を回避することができる.対象流域の発電用ダムの操作支援情報として水資源の確保を優先した場合,流域に応じて25から50パーセンタイル値を選択すれば,48時間で20mm以上の豪雨の予測を空振りする可能性を10%以下に抑えつつ,見逃す確率も35%程度に抑えられると期待できる.
  • 花崎 直太, 藤原 誠士, 間地 暁洋, 瀬戸 心太
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     水分野の温暖化影響評価や適応策検討を行うためには,国や地域全体にわたる広域水文モデルを構築するのが有効である.全球水資源モデルH08を利用することにより,データの乏しい地域でもこうしたモデル構築を効率的に進められる可能性がある.本研究ではH08を日本の九州に適用し,世界の主要な大陸河川に適用するために設計された標準的なシミュレーション手順を実施することで過去に観測された水循環がよく再現できることを示した.次に,高精度の入力・検証データが豊富に入手できる地域特性を生かし,入力気象データの観測密度とシミュレーション精度の関係についての知見を得た.
  • 鈴木 俊亮, 野原 大督, 堀 智晴, 佐藤 嘉展
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     将来の河川流量の変化がダム貯水池の利水運用に及ぼす影響について検討を行った.気象研究所MRI-AGCM3.2Sの現在気候実験及び21世紀末気候実験の気候推計データを入力値として,分布型流出モデルHydro-BEAMにより,現在気候および将来気候における吉野川流域と最上川流域の河川流量を推定した.この際,ダム群の操作や大規模取水をモデル化して考慮し,人為的な流況調整を加味した形で河川流量を推定し,流況の変化がダム利水操作に与える影響の基礎的な分析を行った.その結果,将来気候下では夏季以降のダム貯水量が低下する傾向が示された.また最上川流域白川ダムでは,融雪時期の早期化の影響により,初夏に貯水量が減少する可能性が増える傾向が見られた.ただし,夏期の水位制限の存在により,多くの年では融雪時期の早期化の影響は限定的である可能性が示唆された.
  • 海野 仁, Maksym GUSYEV, 長谷川 聡, 千田 容嗣
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,インドネシア国ソロ川流域を対象に超高解像大気大循環モデルであるMRI-AGCM3.2S出力と竹内らの提案するBTOPモデル1)を活用し,現在(1979-2003年)および21世紀後半(2075-2099年)におけるダム貯水量と,貯水量に対応した灌漑可能面積を算出し,気候変動が灌漑農業をはじめとする利水に及ぼす影響を評価する.ソロ川流域では将来,雨季を中心に降水量が増大すると予測される.流域最大の貯水池であるWonogiriダムでは将来,流入量が増加する時期があることから,洪水期・非洪水期の期別の見直も必要と考えられる.将来における灌漑可能面積は,雨季後半から乾季を作付期とするII期で増大し,渇水リスクの減少が見込まれる.
  • 萬 和明, 黒崎 直哉, 市川 温, キムスンミン , 立川 康人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     洪水ピーク流量に対して,洪水以前の土壌水分が影響することが指摘されている.分布型水循環モデルを用いれば日々の大気場に応じた土壌水分の変化を計算でき,土壌水分の流量計算に対する影響を陽に考慮できる.
     タイ国のブミポンダム上流域を対象に雨季における月単位の大気場の相関関係を調べたところ,7-8月を除いて連続する2ヶ月の降水量に相関関係がないと判断できた.そこで,8月と9月を境界に大気場を組み替えて多数年におよぶ大気場を作成して,分布型水循環モデルに入力し多数年におよぶ河川流量データを作成した.作成した河川流量データの年最大日流量は,元となった大気場を河川流量に変換した年最大日流量の頻度分布と類似していた.また,年最大日流量は降水量だけで決定されるのではなく,土壌水分も影響することが示唆された.
  • 笠間 基, 駒井 克昭, 丸谷 靖幸, 佐藤 辰哉
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     森林,畑地,湿地,および牧草地,等,様々な土地利用がモザイク状に分布する釧路川流域を対象として,陸域起源の溶存有機炭素の総流出量を定量化し,将来予測するためのシンプルなモデルのプロトタイプを構築した.釧路湿原の上流の一部の小流域と河口を含む流域全体での溶存有機炭素濃度を現地調査し,膨大な炭素源を有すると考えられる釧路川流域からの平水時と融雪期を含むイベント時の面源からの流出負荷特性を明らかにした.CMIP5による全球気候モデルの将来予測値を簡易的な溶存有機炭素の流出モデルに組み込むことで,将来の釧路沿岸域への溶存有機炭素の流出量は季節的に減少する時期があるものの,通年においては増加することが予測された.
  • 中北 英一, 小坂田 ゆかり
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,メソβとマクロの両スケールから梅雨豪雨の将来変化予測を行うことを試みた.メソβスケールからは,5km解像度領域気候モデル(RCM05)の降雨分布出力を用いて梅雨豪雨発生頻度の将来変化解析を行った.一方マクロスケールからは大量アンサンブルを持つ20km解像度データ(d4PDF20)を用いて,梅雨豪雨をもたらす特徴的な大気場の統計的な将来変化解析を行った.
     RCM05 解析の結果,将来気候の7月上旬,8月上・中旬において5%有意で梅雨豪雨の増加が示され,地域別で見ると北海道や東北,北陸,中国地方など北日本や日本海側において5%有意で梅雨豪雨の増加が示された.d4PDF20解析からは,梅雨豪雨との対応が非常に高い複数の大気場パターンが抽出され,将来気候においてそれら大気場パターンの発生頻度が顕著に増加することが明らかになった.また,梅雨豪雨との対応が高くはないものの,将来気候において新たに発生し始める大気場パターンも抽出された.
  • 渡辺 春樹, 吉川 沙耶花, 瀬戸 里枝, 鼎 信次郎
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では気象官署,アメダス,解析雨量さらに区内観測などの観測データを用いて過去と現在の一定期間における極端降水頻度を算出し,その変化率を求めた.さらにヨーロッパ全域を対象とした研究で指摘された,極端降水頻度の変化率がClausius-Clapeyron式,約7%°C-1に類似するという仮説が日本でも成り立つのかを調べるため,観測データに戻づく極端降水の変化率とClausius-Clapeyron式で表される変化率を比較し,データや年代,地域を変えて様々な解析を行った.その結果,観測の極端降水頻度の変化率がに類似する結果が多く確認された一方で,2倍の14%°C-1を超える結果も一部確認された.
  • 板谷 知明, 芳村 圭
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     気候変動の地域への影響を研究するためには領域気候モデルを用いた力学的ダウンスケーリングが行われているが,高い計算コストのために多数のアンサンブルシミュレーションを行うことは困難であった.本研究ではニューラルネットワークの中でも近年開発された手法である深層学習を用いて,領域気候モデルのエミュレーションによる新たなダウンスケーリング手法を開発した.日本周辺の領域で検証を行ったところ,領域気候モデルの地上2m気温と降水量の時空間変動をある程度再現することに成功していた.力学的ダウンスケーリングの低コストな手法として,深層学習を用いた方法の有用性が示唆された.
  • 森山 文晶, 芳村 圭, 筆保 弘徳
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     領域大気海洋結合モデルRSM-ROMSの不確実性検証を目的とし,CORDEXアジア域で力学的ダウンスケーリングシミュレーション実験を行った.RSM-ROMSによる実験結果を領域大気モデルRSMによる実験結果や観測,再解析データと比較した.本研究の結果は以下のようにまとめられる.
     1) RSM-ROMSの海面温度は観測データに対し低温傾向を持つが,相関係数0.99で,観測データの年々変動や季節変動を捉えた.またパワースペクトルはRSMより詳細な構造を示した.
     2) RSMで現れた山間部の多雨傾向がRSM-ROMSで増加した一方で,海上降水量の誤差は減少した.
     3) RSM-ROMSは水深 100mの海水温に4℃以上の低温傾向を持つが,海面温度と同様に季節変動を捉えた.RSM-ROMSの海水温の誤差は季節変動より大きく,不確実性を示唆した.
     4) 熱帯域においてRSM-ROMSで海面の正味熱フラックス誤差が改善されたが,中緯度域では誤差が増加した.
  • Quan Anh TRAN, Kenji TANIGUCHI
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     Summer monsoon brings over 70% of total annual precipitation to Vietnam northern mountainous region. The large amount of rainfall concentrated in a short time resulted in various flood-related disasters in many regions, especially in Cau-Thuong-Luc Nam (CTLN) watershed. Under the global warming, frequency and intensity of flood occurrence in CTLN watershed have been gradually increasing. There is an urgent need to establish the countermeasures for this key economic region based on the deep understanding of the hydro-meteorological characteristics of the watershed. In this study, we investigated the rainfall-runoff and inundation characteristics of the CTLN watershed in connection with the correspondence climate condition of the present (2000-2009) and future (2060-2069). The Rainfall-Runoff and Inundation (RRI) model was used for the simulation of watershed hydrological characteristics. The essential future precipitation inputs for RRI were achieved by using the Weather Research and Forecasting (WRF) model nested inside GFDL-CM3, and MIROC-5 models. Results of this study suggest the severe flood and inundation condition of the CTLN watershed in the mid-21st century. We have found the increasing trend in total rainfall during the rainy season throughout the watershed. Compared to the present climate, both GFDL-CM3 and MIROC-5 models show the significantly stronger flood intensity with extended inundation radius.
  • 渡部 哲史, 内海 信幸
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     気候予測情報の類型化に向け,地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)の日本域降水量を対象とした特徴の把握を行なった.大規模予測情報がどの程度類型化可能かという点を,各分類対象間の距離がクラスタ数の変化と共にどのように変化するかという点から調べたところ,短時間かつ極端な降水量に関しては類型化による特徴的な予測情報の抽出が難しい一方で,一定の時間を合計した降水量,もしくは,再現確率が極端でない降水量を考える場合は,効果的な類型化により特徴的な予測情報を抽出できる可能性が示された.
  • 高 裕也, 二宮 順一, 森 信人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     現在気候実験3,000年(60年×50メンバ)および将来気候実験5,400年(60年×90メンバ)の大規模アンサンブル気候予測データ(d4PDF)を用いて,日本海沿岸における低頻度気象災害要因の一つである爆弾低気圧に対する気候変動の影響評価を実施した.現在気候および将来気候からの爆弾低気圧抽出結果から,発生個数にはほとんど将来変化はないが,最低中心気圧の強度は将来的に増加する傾向があることがわかった.また,日本沿岸域に被害を及ぼす可能性がある爆弾低気圧について解析した結果,全体に占める台風並みに発達する爆弾低気圧の割合が増加し,特に中心気圧の強度も増加する傾向を示した.
  • 原田 守啓, 丸谷 靖幸, 児島 利治, 松岡 大祐, 中川 友進, 川原 慎太郎, 荒木 文明
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究は,気候変動予測データベースを用いた洪水頻度解析に,河川管理者が計画策定に用いている流出解析モデルと水文観測データを極力活用することにより,円滑なリスクコミュニケーションが可能な影響評価手法を構築することを目的とし,木曽川水系長良川を対象とした検討を行った.d4PDF NHRCM20から抽出した年最大降水イベントによる洪水流出解析結果は,年最大洪水流量観測値の分布を良く表現した.解析結果に簡易な補正を行うことにより過去気象と4℃上昇時の洪水頻度分布を得た.気候モデルの空間解像度等により流出解析モデルが受ける影響について検討の余地を残すものの,本研究が示す検討手順は,国内他流域にも適用可能な汎用性を有する.
  • 星野 剛, 山田 朋人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     アンサンブル気候予測データベース(以下,d4PDF)を用い,日本国内の全一級水系における年最大流域平均降水量の特徴を分析した.はじめにd4PDFの過去実験と観測値に基づいた降水量情報から得られる年最大降水量を比較し,年最大規模の流域平均降水量をd4PDFで議論可能であることを示した.次に,d4PDFの特徴である大量アンサンブル情報を用い,アンサンブルメンバ間での年最大流域平均降水量のばらつきを水系ごとに分析し,地域ごとの傾向について考察した.最後に,従来の気候条件と温暖化が進行した際の気候条件でのシミュレーション結果を比較し,全国的に年最大流域平均降水量が増大することやその変化率には地域差が存在することを示した.以上の結果より,大量アンサンブル情報による大雨の評価の有用性や大雨の激甚化や高頻度化を踏まえた治水対策の重要性が示唆された.
  • Patinya HANITTINAN, Yasuto TACHIKAWA, Yutaka ICHIKAWA, Kazuaki YOROZU
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     Projections of river discharge at the Indochinese Peninsula under climate change were analyzed by comparing the empirical distributions of annual maximum daily river discharge for the present and future climate experiments. The river discharge was simulated by a kinematic-wave flow routing model, 1K-FRM using the runoff generation data stored in the database for Policy Decision Making for Future climate change, d4PDF. To fully utilize the multi-initial and boundary condition datasets, the differences between each couple of the empirical distributions of the future annual maximum river discharge produced by different groups of SST patterns were investigated firstly using the non-parametric two-sample KS-test and AD-tests. The analysis results indicated that the differences in the distributions were significant for much of the study area except parts of the Mekong Delta and southern Indochina Region. Thus, the total number of samples was limited within the same SST pattern, which is equivalent to 900-year period data. Then, the changes of river discharge in the future period for each SST pattern and its statistical significance were assessed using the Mann-Whitney U-test. The outcome demonstrated that despite the various degrees of changes according to locations, the detected changes at the Mekong Delta, southern Indochinese Peninsula and at the mouth of the Red River were statistically meaningful with the 95% confidence level.
  • 谷口 陽子
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,北海道のダム流域において積雪に依存する水資源量を適切に推算し,気候変動の影響を評価することである.積雪寒冷地の水循環は雪に強く依存しており,水資源量の的確な推定には積雪層の圧密過程を適切に推定することが必要である.そこで本研究では長期にわたる積雪詳細観測値を用いて札幌市のダム流域における圧密過程を把握し,長期水循環モデルLoHASでの全層積雪密度の算出過程の改良を図った.改良した手法によって,将来気候シナリオRCP8.5に基づいた地域気候モデルMRI-NHRCM20を用いて,現在気候と将来気候における水資源量の定量化及び比較を行った.積雪詳細観測に基づいた本研究の手法は,適切な水資源量を定量的に評価することが可能であり,将来の気候変動への適応策を考えるうえで必要不可欠な水文諸量を推定できることを示した.
  • 工藤 啓介, 長谷川 裕史, 中津川 誠
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     地球温暖化に伴う気候変動の影響は,北海道等の積雪寒冷地で既に顕在化しつつあるが,市町村等の地域レベルで気候変動の影響が地域の水資源や自然環境にどの程度生じるのか,十分解明されていない状況にある.本報告では,気候変動に対する適応策を立案するための基礎研究として,気象庁が公開している気候変動予測データを用いて,空間補間法により積雪寒冷地の地域レベルにおける気象水文分布特性を推定し,熱・水収支解析モデル,水質解析モデル等を用いて汽水湖における水質の将来変化を定量的に評価した.水質シミュレーション結果から,気候変動により汽水湖の表層における水温及び塩分濃度が上昇し,日別値のばらつきが現在気候に比べて大きくなることが把握された.
  • 渡辺 恵, 柳川 亜季, 平林 由希子, 渡部 哲史, 坂井 亜規子, 鼎 信次郎
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     気象外力は,氷河モデルを用いた氷河融解予測の不確実性の一因であるが,その影響についてこれまで統合的に評価されていない.気象外力の不確実性が氷河融解予測へ及ぼす影響を評価するため,気象観測の乏しいアジア高山域の氷河を対象とし,氷河モデルのキャリブレーション方法を改良した.21世紀中盤では,氷河モデルキャリブレーションとGCMのバイアス補正に用いる降水量データの選択による氷河融解量の違いは,GCM間のばらつきによる氷河融解量の違いと同程度になることが分かった.また,これまでGCM出力の気温のばらつきは,GCM出力の降水量のばらつきよりも小さいと想定されていた.しかしながら,GCM出力の気温のばらつきに起因する氷河融解量の違いは,GCM出力の降水量のばらつきに起因するものよりも大きくなる場合が多いことが示された.
  • 芳村 圭, 新田 友子, 石塚 悠太, 多田 真嵩, 鈴木 健太郎, 竹村 俊彦
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     短寿命気候汚染物質の一つである黒色炭素BCと,二酸化硫黄SO2の排出の増減が,陸域水循環へ与える影響を,陸域オフラインモデルシミュレーションを使って調べた.その結果,(1)BCとSO2共に全球降水量を減少させ,BCでは特に流出量減少に効果が出やすいこと,(2)降水量及び流出量の地域分布では減少と増大が入り混じり,その分布はBCとSO2で大きく異なること,(3)BC排出を制限することで全球での水資源のストレスが緩和する可能性があること,(4)BCとSO2共に排出を抑制しても推進しても洪水暴露人口は増大することが示された.
  • Alvin C. G. VARQUEZ, Shun TAKAKUWA, Manabu KANDA, Zhuohang XIN
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     A systematic method to project the future distribution of population in megacities is introduced. Two general steps were discussed: (1) estimation of urban sprawl by an urban growth model, SLEUTH; (2) estimation of population distribution by a logistic model with variable empirical coefficients. Predicting the annual change from 2014 to 2050, Jakarta megacity was used as a benchmark urban agglomeration. The key inputs are historical land cover and geographic information, transportation networks, high-spatial resolution population density, and country-level projection of population as defined by various shared socio-economic pathways (SSP). Coefficients were modified in SLEUTH to predict urban sprawling (and auxiliary probability map) compatible with a suitable SSP faced by the encompassing country. Utilizing the predicted annual probability of urbanization and the key inputs into a discrete logistic model with empirical coefficients fitted to minimize the difference of total predicted population with that provided by SSP, population distribution of the target urban agglomeration, Jakarta, was obtained.
  • 森脇 亮, 今村 実, 全 邦釘, 藤森 祥文
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     風の流れは非線形現象であるため,ある地点の風が次の瞬間にどう変化していくかを予測することは一般には難しい.ところが,地上の風速変動は大気境界層内の乱流現象の一部として出現するため,完全にランダムな現象ではなく乱流構造の通過に伴う「くせ」を持っている.本研究では,深層学習(ディープラーニング)の一つであるLSTM(Long Short-Term Memory)を用いて風速変動の「くせ」を学習させ,現在から10秒先までの風速変動の予測を試みた.また接地層乱流の性質を考慮しながら入力条件による予測精度の変化を検討した.リードタイムが長くなるにつれて予測精度は低下するが,適切な学習時間長さを設定したり,鉛直風速を入力条件に加えることが風速の予測精度を向上に寄与することが確認できた.
  • 菊池 悠馬, 仲吉 信人, 酒井 遼
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,夏季における都市街区内を往来する市民の熱負荷の影響評価を行うことを目的に,東京駅周辺での被験者動線に沿った微気象観測,および被験者の生理応答(皮膚温度,深部体温),温熱心理量(温熱感,快適感)の同時測定を行った.対象街区でのSET*は25℃から45℃のレンジで局所的に変化しており,これは建物の高さやその密集度,また街路樹の分布といった街区構造の違いを反映していた.皮膚温度変化はSET*の変動と同様の傾向を示し,熱ストレスの影響は大きいことが確認できる.深部体温は熱ストレスとの関係は確認できないが,1時間程度の屋外での歩行によって上昇を確認できた.温熱感変化はSET*の変動を追随していた.
  • 中島 健, 仲吉 信人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     既存の平均放射温度測定手法全てにおいてオープンスペースでの定点観測と街区内での移動観測を行うことで,包括的な精度検証を行った.6方向放射測定法(MRT_true)を真値と考え,直達・上下放射測定法(MRT_dir),測定の容易な1球のグローブ温度計を用いた手法(MRT_gray)とグローブ風速放射センサ(MRT_GAR)による手法を比較した.1分平均値でみた定点観測の結果では,MRT_dir,MRT_gray,MRT_GARでMRT_trueと比較したときの最大誤差は4.1 ℃,13.1 ℃,9.9 ℃であり,平均二乗誤差はそれぞれ1.32 ℃,5.43 ℃,1.94 ℃であった.移動観測ではMRT_gray,MRT_GARでMRT_trueと比較したときの最大誤差は13.2 ℃,11.5 ℃ほど生じることもあるが,地点ごとの平均値でみるとそれぞれ6 ℃,3 ℃未満に抑えられていた.定点観測で十分な測定精度を示し,移動観測への適正が高いMRT_GARの高いポテンシャルが示された.
  • 河野 恭佑, 植田 弥月, 稲垣 厚至, 小田 僚子
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     都市街区スケールにおいて晴天時と曇天時の空間内の熱ストレスを把握するために,東京都市街地で台車を用いた移動観測手法により暑熱環境を計測した.約 3kmの観測ルート内は一様なアスファルトの地表面であったが,湿球黒球温度(WBGT)は約 5℃と大きく変動し,曇天時も晴天時と同程度の大きな変動を示した.WBGTの空間平均値は日射量が大きく異なるにも関わらず晴天時と曇天時ともに同じ値を示したが,晴天時は黒球温度,曇天時は湿球温度がそれぞれ支配的であり,人体が感じる暑さの感覚は異なっていた.また,観測ルートを活動空間に分けて熱ストレスの相違を検討したところ,「住宅街」では「街道」よりも弱風条件下では蒸し暑い状況になりえる可能性が示唆された.
  • 河本 陸, 稲垣 厚至, 神田 学, Muhammad Rezza FERDIANSYAH, 石橋 耀二
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     都市キャノピー層は不均一で複雑な幾何特性のみならず,人間活動(歩行者,車など)による非定常性も加わって,その中における観測結果の解釈は困難を極める.これに対し本研究では,移動観測を長期間に渡り同一経路で実施することで,非定常性を排除した都市街区微気候特性を明らかにすることを目的とする.移動観測に際しては携帯できる小型グローブ放射風速計を用いることで,負担の少ない観測を可能にした.これにより1日3回程度の観測を20日間継続し,計51回の観測を実施した.得られたデータを風向別に分け,アンサンブル平均した.これにより得られた結果として,(1)都市キャノピー内の風速は建物が作る街区形状のみならず,地形の影響も強く受けること,(2)気温に関してはより広域の気温変化と概ね一致するものの,地形及び街区構造の違いが空間的な偏差をもたらすことを示した.
  • 居石 貴史, Meral YUCEL, 足永 靖信, 稲垣 厚至, 仲吉 信人, Alvin C. G. VARQUEZ, Nisrina ...
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     近年、地球温暖化と都市温暖化の影響により、都市の気温は上昇している。特にアジアのメガシティでは急速に都市化が進み、さらなる温暖化の進行が懸念される。これらの温暖化に対する適切な対策を講じるため、アジアのメガシティを対象とした包括的な気象解析の体系化が必要とされている。本研究ではLarge Eddy Simulation (LES)とEnergy Balance Modelのオフラインカップリングを行い、2mの高解像度で都市街区の3次元的な空間構造を考慮した気象場の解析を実施した。6個の数値解析を行い、モデルの精度検証や、現在や将来の気象場の解析を行った。将来シナリオは気候変動研究でグローバルに用いられるRepresentative Concentration Pathways (RCP)とShared Socio-economic Pathways (SSP)を基に、都市のローカルなシナリオも考慮して作成した。初期条件はWeather Research and Forecasting (WRF) Modelからダウンスケーリングを行い作成した。温熱指標であるStandard new Effective Temperature (SET*)を用いて、気候変動(グローバルシナリオ)や都市形状・緑被率(ローカルシナリオ)の変化が温熱環境に与える影響を評価をした。
  • 岡地 寛季, 山田 朋人, 渡部 靖憲
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     大気海面間では常に運動量交換がなされている.一般的に運動量交換の指標となる運動量交換係数(抵抗係数)は風速とともに単調増加すると扱われてきた.この運動量交換係数は大気の剪断応力のみを考慮するが,暴風雨下で大気中に存在する砕破飛沫(以下,飛沫)及び雨滴により生じる剪断応力は加味しない.先行研究では,風速が25 ~ 30 m/sを越えると,飛沫が海面を覆うことで気泡を含んだ海洋と飛沫を含んだ大気の二層構造を形成し,風速が30 ~ 40 m/sとなると運動量交換係数が極大値となることを示した.暴風雨時は飛沫のみではなく雨滴が存在するため,雨滴は運動量交換に影響をもたらす可能性がある.しかし双方の影響は分類できていない.本研究は,Andreas(2004)による飛沫に起因する運動量交換係数に雨滴の影響を考慮した式を提案した.同式から,風速23 ~ 38 m/s程度において運動量交換係数は強降雨ほど減少し,それ以上の風速では飛沫の影響により運動量交換係数は減少することを示した.
  • 玉川 勝徳, Mohamed RASMY, 小池 俊雄
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     土壌水分量は長期的な水循環変動を考える上で,また,アジア地域における天水に頼る農業活動において重要な水文量の一つである.本研究は人工衛星GCOM-Wに搭載されたマイクロ波放射計AMSR2を用いて,広域的に高頻度で土壌水分を推定する際に問題となる,6.9GHzのフットプリント内の不均一性のうち,水域と灌漑域に着目し,これらの影響を除去した陸域のみの土壌水分を推定する手法を検討した.対象地域は,カンボジアのトンレサップ湖の西部に位置するPursat観測サイトとした.2013年8月~2014年7月を対象に,6.9GHzフットプリントから水域と灌漑域の影響を除去した輝度温度を計算し,次に,LDAS-UTに観測値として入力し,Pursat観測サイトでの10cm深度の土壌水分観測データで検証した.その結果,地表面に水面を含む地域での土壌水分推定精度を改善できることを示した.
  • 北野 慈和, 山田 朋人
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     中緯度地域では,ブロッキング発生に伴いジェット気流の異常な蛇行が数週間程度継続し,周辺地域に水文気象災害を引き起こす.Rossby (1950)とArmi(1989)はジェット気流の蛇行と開水路流れとのアナロジーに着目したブロッキング形成の理論研究を行った.北野,山田(2017)は同理論を現実大気場に適用可能とし,ブロッキングの典型的な流れ場とジェット気流が有する比エネルギーとの関係を説明した.本研究では比エネルギーの理論を用い,1989年に太平洋にて多発した複数のブロッキングイベントの解析を行った.太平洋ブロッキングが発生する数日前に,日本の上空にて比エネルギーが高まったことが判明し,これはブロッキングの予測の向上に寄与する可能性を有する.
  • Wendi HARJUPA, Eiichi NAKAKITA, Yasuhiko SUMIDA, Kosei YAMAGUCHI
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     This research aims to investigate the growth stage of cumulus cloud before the occurrence of Guerilla-heavy rainfall (GHR) using the rapid scan observation of Himawari-8, which has fine temporal and spatial resolutions. For our goal, we utilized Rapid Development Cumulus Area (RDCA) index for earlier detection of first echo aloft (baby-rain cell). As our research focuses on the development of small-scale cloud, we eliminated parallax problem in Himawari-8 observation. We overlaid 16 cases of brightness temperature (TB; Band 13) of Himawari-8 and composite radar observational data. Based on the distance between cloud and rain cell centers in two images, we retrieved the linear equation to solve the parallax effect. The correctness of relocated cloud was confirmed by comparing the estimated top heights of cloud and precipitation. The displacement vector of TB was applied to solve parallax effect for Band 03 visible channel and RDCA index. In this research, we modified the usage of RDCA index from lightning prediction to the baby-rain cell prediction of GHR. The original RDCA index, ranging from 0.1 to 0.9 was used to detect the early signal in cloud development process to predict the occurrence of baby-rain cell. By analyzing some case studies we confirmed that detailed RDCA index can predict the occurrence of baby-rain cell of GHR.
  • 三津井 勇佑, 田中 健路, 白水 元, 朝位 孝二
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     2017年7月5日午前,中国西部では,九州北部豪雨に先んじて特別警報級の大雨が観測された.この大雨による被害は,同日発生した九州地方での被害と比べ程度が小さく,あまり注目されていないが,被害が小規模にとどまった要因などを検討する上で,その発生機構を明らかにする必要がある.本研究では,各種気象資料の解析や数値モデルによるシミュレーションにより,中国地方の豪雨をもたらした線状降水帯が,台風通過後の梅雨前線の形状の変化の過程で発生し,大陸側の高気圧の影響で衰退したことを明らかにした.また,中国西部と九州北部のそれぞれの豪雨ピーク時では気象場の対流活動の規模がことなることが分かり,これが降水量や被害の差異に影響することが示唆された.
  • 山崎 雅貴, 梁 政寛, 吉村 千洋, 城山 理沙
    2018 年 74 巻 4 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー
     洪水・渇水などの水文学的事象は河川生態系にとって重要な環境要因であり,このような事象の発生時期は生物の生活史と関連し,河川の生物多様性とも関係があると考えられる.本研究は循環統計を用いて,世界の59の河川における流域規模の魚種種数と洪水・渇水の発生タイミングとの関係を評価することを目的とした.その結果,大・中規模洪水の周期性は面積当たりの在来種魚類種数と有意な上に凸の単峰型の傾向が見受けられ,中規模かく乱仮説を支持していた.また,小規模洪水の周期性には,面積当たりの在来種魚類種数と有意な負の相関が確認された.小規模洪水の発生における高い周期性は,限られたタイミングで氾濫原を利用する魚類群内の競争を増加させ,低い周期性は幅広いタイミングで氾濫原を利用する機会を提供していると考えられる.
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