抄録
平成29年7月九州北部豪雨において,2017年7月5日に昼頃から夜にかけて1級河川筑後川中流域に位置する福岡県朝倉市周辺で非常に強い集中豪雨が発生した.この集中豪雨により山腹崩壊や土石流,河川の氾濫が数多く起こり,甚大な人的・物的被害をもたらした.そこで,本研究ではこの集中豪雨を対象に統計的・物理的検討を行った.まず,一般極値分布を用いてAMeDAS朝倉観測所における降水量に対し頻度解析を行った.その後,地域大気モデルを用いた再現計算を行い,集中豪雨を引き起こした要因を追及した.頻度解析によると,2017年7月5日に朝倉で観測された1,3,6,12時間の最大降水量は非超過確率が限りなく1に近づくときの値を超えていた.一方で,再現計算によると7月5日に日本海側から南下した停滞前線と九州の地形が湿った空気の集積を引き起こし,集中豪雨をもたらしたと考えられる.本豪雨は頻度解析によると統計的に起こりえない豪雨であったが,九州の地形と停滞前線の移動と停滞が主な要因であり,物理的側面からは起こりえないほど稀有な事象ではない可能性があると考えられる.