抄録
公共事業に関わる意思決定問題において,他の価値とのトレード・オフを忌避する「保護価値」が介在する場合,異なる価値間の比較衡量が出来ず,適切な判断を行うことが困難となる可能性がある.本研究では,公共事業における保護価値の問題に着目し,保護価値の心的特徴を明らかにするとともに,公共事業の意思決定方式と保護価値保持者の受容意識との関連について実証的に検討することを目的とした.アンケート調査より,保護価値が非帰結主義的な義務論的ルールと関連していることを示す結果が得られた.また,保護価値保持者においては,費用便益分析によって事業が採択された場合に,その他の方法に比べて,当該事業に対する受容意識が低い傾向が見られた.最後に,本研究の結果が公共事業に関わる合意形成問題に示唆する点について考察した.