2021 年 77 巻 3 号 p. 207-218
地方都市の公共交通機関にもスマートカードが導入され始めている.スマートカードは決済時の利便性向上に供するだけでなく,カードIDごとに乗車日時や乗降時刻,停留所などの利用履歴情報を大量に記録している.この情報を用いて,利用需要と各種要因との因果関係を集計的に分析した例はあるが,個々の利用者の時系列の選好特性の分析を行った例はない.本研究では,効用関数のパラメータを状態変数,乗車の有無を観測変数とした状態空間モデルを構築し,熊本市電のスマートカードデータを用いて状態変数を推定することによって市電利用者個人の時間的な選好特性の分析を行った.さらに得られた状態推定値を用いて利用者をクラスタリングし,個々人にとって最適な利用促進策を提案する公共交通マイクロマーケッティングの可能性について検討した.