2023 年 79 巻 23 号 論文ID: 23-23180
わが国の橋梁の多くは高度経済成長期に建設されたものが多く,それらの老朽化にともなう補修・更新費用の増大が問題となっている。それらを維持管理する地方自治体では,景気低迷や急激な人口減少等により財政のひっ迫化や人材不足が深刻であり,将来的には橋梁の統廃合が避けられない状況にある。橋梁を削減する際の課題は住民合意である。住民合意形成をうまく進めていくためには,これまでのトップダウン的な説明ではなく地域住民の立場から見た影響評価が不可欠である。本研究では,マルチエージェントシミュレーション(MAS)を用い,地域住民の日常的移動をコンピュータ上で再現し,橋梁の統廃合によって住民が受ける不利益を定量化するモデルを開発した。開発したMASではエージェント(住民)に移動負担を表す関数を持たせることで住民の複雑な経路選択を表現することができ,住民視点から橋梁を評価することが可能となった。開発課題である計算負荷は,2層構造化した最適化アルゴリズムを開発し解決した。そして,富山市を対象として実証的検討を行い,住民視点からの橋梁の維持管理優先度を提示することができた。