2023 年 79 巻 25 号 論文ID: 23-25018
国内においてカビ臭発生が問題になっているダム貯水池において,カビ臭発生抑制のための知見獲得のため,次世代シーケンサーを用いた16S rRNA遺伝子及び18S rRNA遺伝子を対象とした微生物叢の把握を年間を通じて行った.その結果,光学顕微鏡を用いた検鏡と比べ,はるかに多くの微生物種を検出することができ,ダム貯水池内に生育するより詳細な微生物叢を把握することができた.また,従来の光学顕微鏡では検出しにくいカビ臭産生種や浄水場におけるろ過障害の原因種を幅広くモニタリングすることが可能であった.さらに,主座標分析によるサンプル間の微生物叢類似度比較から,調査したダム貯水池では,4月下旬から10月上旬にかけて,堰堤付近の底層の菌叢が,表層や湖心底層と大きく異なっていることが明らかとなった.このダム貯水池において,春季から秋季にかけて,堰堤底層付近の水はカビ臭産生種の相対存在率が小さく,移動性も小さかった.以上のことから,この期間に,曝気循環装置等で表層の水を堰堤底層付近に移送し,原因種の増殖を抑制させることが可能であれば,ダム貯水池内で発生するカビ臭を効果的に低減させることができる可能性が示唆された.