抄録
各地で干潟の造成が進められる中,造成技術の開発はある程度進んだが,依然として多くの課題が残されている.そこで自然の不確実性が伴う干潟造成事業では,継続監視を続けながらその前提の妥当性を検証しつつ,状態変化に応じた管理を進める「順応的管理」の手法が注目されている.ただ,長期に渡りこれを実践した例は未だなく,必ずしも知見として十分であるとは言えない.
広島県では,広島港五日市地区の港湾整備事業に伴い県内有数の水鳥の飛来地である河口干潟が大部分消滅することとなったため,ミチゲーションの考え方に基づき,昭和62年度より代替地となる約24haの人工的に干潟を造成した.しかし,当時は鳥類を対象とした干潟造成に係る知見は極めて不十分であった.さらに,当該干潟は軟弱在来粘性土地盤の上に,浚渫粘性土を有効活用し造成されたため,干潟面の継続的な圧密沈下が予測された.よって,追跡調査を続けながら,干潟環境の形成と変化を監視し,鳥類飛来地としての干潟環境の再生を進めていくこととした.
本研究は,今から20年余り前,まだ「順応的管理」という言葉が十分認知されていない時代から進められてきた五日市地区人工干潟における順応的管理の実践とその効果について検証するものである.