2018 年 74 巻 2 号 p. I_462-I_467
オカガニ類の保全にとって重要な幼生の動態を明らかにするため,実際に野外で観察されたミナミオカガニとオカガニの幼生放出の日時と場所,風向・風速,河川流量の観測値を用いて,網取湾周辺海域における幼生粒子追跡を行い,移動と加入について解析した.オカガニ類の幼生放出は,主に満月前後の夜間満潮時に行われたが,その場所と日時は種間にわずかな違いがみられた.幼生は30分間で平均20~43 m移動し,ほとんどの幼生は放出から1週間程度で,湾外へと輸送された.放出場所への回帰率(< 0.01%)は,隣接する生息場所への来遊率(< 10%)を下回ることが多かった.回帰率の低さは幼生が分散型の移動戦略をもっていることを示唆しており,オカガニ類の保全にはメタ個体群動態を考慮する必要があると考えられる.