日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
導波特性を設計目標とする電磁波導波路のトポロジー最適化
木下 慎也西脇 眞二泉井 一浩吉村 允孝野村 壮史佐藤 和夫平山 浩一
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2007 年 2007 巻 p. 20070025

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抄録

電磁波デバイスの高性能化を図る方法として,電磁波伝搬時の共振現象が広く利用されている.誘電体共振器アンテナ(Dielectric Resonator Antenna)はその代表例で,セラミックス等の誘電体材料で構成される誘電体共振器の放射現象を利用して,自由空間中への電波の発信あるいは受信を効率よく行う.さらに,電磁波導波路の一つである導波管は,導波路断面内では金属壁で電磁波を閉じ込めて共振状態とし,主にマイクロ波帯以上の高周波の電磁波を効率よく伝達する.そして,これらの電磁波デバイスの性能は,その形状・形態に大きく左右され,その形状設計如何により,電磁波デバイスの性能を大幅に向上できる可能性をもつ.しかし,その設計は,解析的な性能評価が可能な単純な形状の範囲内でのみ,評価に基づく設計検討がされているだけで, 解析的な評価が困難な複雑な形状の場合には,設計者の勘と経験により,試行錯誤的に形状設計されているのが現状で,電磁気学考察に基づいた統一的な構造設計法は,いまだ確立されていない.他方,1988年に新しい構造設計法として提案されたトポロジー最適化手法は,性能の抜本的改善が可能な構造の創出方法として,構造の剛性最大化問題,固有振動数最大化問題,など多くの構造設計問題に適用され著しい発展を遂げている.さらに近年では電磁波伝搬問題における形状設計にも適用されつつある.例えば,JensenとSigmundは,トポロジー最適化により,フォトニック結晶光導波路の曲がり部の最適形状を創出している.これに対して,Kiziltasらは,パッチアンテナの基板形状設計に適用し,アンテナの高性能化を図っている.また,Nomuraらは,アンテナの性能評価に多用されているFDTD法に基づいたトポロジー最適化の方法を開発するとともに,誘電体共振アンテナの構造最適化に適用している.さらに,野村らは,電磁波材料のマイクロストラクチャの構造設計に適用し,メタマテリアルの形状を創出している.しかし,これらの研究では,Maedaらが指摘しているように,目的関数を特定の方向の電磁波応答の最大化・最小化としているため,目的関数の極度の多峰性によりグレースケールを生じやすく,物理的に意味のある最適構造を得ることが非常に難しい.さらに,基本的には最低次の固有モードに基づく応答の向上だけしか行えず,より高次な固有モードに基づく高性能化を行うことは難しい欠点ももつ.また,固有モードなどの周波数特性を目的関数とした最適設計法としてはevolution algorithm やlevel set理論を用いたフォトニック結晶のバンドギャップ構造最適化が提案されているが,トポロジー最適化に基づく電磁波伝搬問題における統一的な設計法としては確立していない.そこで本研究では,導波特性の操作に基づく電磁波導波路の新たな最適設計法の確立を目的とし,その方法論の開発の第一段階として,導波管の二次元断面構造の設計を対象に,導波特性を設計目標とする電磁波導波路のトポロジー最適設計法を構築した.すなわち最初に,トポロジー最適化の方法とその電磁波伝搬問題への展開方法について説明するとともに,電磁波導波路における電磁波伝搬状況を表す場の方程式を導出した.そして,導波管を設計するに際し必要となる設計要件を明確化するとともに,その設計要件を満足可能な目的関数を設定した.さらに,その目的関数を用いて,グレースケールを除去可能な新しい多目的最適化問題を定式するとともに,最適化問題の定式化に基づき最適化アルゴリズムを開発した.最後に,簡単な導波管の二次元断面の設計例により,本研究で提案する方法の妥当性を検証した.その結果,位相定数の最大化の場合には,誘電体の体積制約のもと,グレースケールを含まない物理的に妥当な最適構造が得られることかわかった.他方,位相定数を目標値に一致させる最適化問題においては,ペナルティパラメータを1より大きな値に設定しても,グレースケールを含まない最適構造を得られないが,提案する多目的な目的関数を用いれば,グレースケールを含まない物理的に妥当な最適構造が得られることかわかった.

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© 2007 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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