日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
認識能力を備えたデータ解析システムの概念設計
—有限要素法を用いた耐震解析への適用—
木野 千晶鈴木 喜雄西田 明美櫛田 慶幸林 幸子中島 憲宏
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2008 年 2008 巻 p. 20080018

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抄録

計算科学技術の進歩·計算機性能の大幅な向上により大規模かつ様々な物理現象を考慮した複雑な数値シミュレーションが可能となっている.数値シミュレーションは実条件·実環境下で実験することはコスト面·安全面から不可能な事象の解明にも有効であることから,その必要性·重要性は年々増している.例えば,日本原子力研究開発機構システム計算科学センターでは,実振動台では取り扱えない原子力施設全体規模の3次元振動シミュレーションを用いた耐震性評価に関する研究開発(3次元仮想振動台)に取り組んでいる.このような大規模かつ複雑な数値シミュレーションの場合,人間の認識能力の限界から,解析条件の設定ミスや解析手法の誤用,耐震評価における危険部位の誤認など,多数のミスや見落としが発生する可能性を持っている.このような数値シミュレーションが対象とする事象は実験では検証不可能なものが多く,解析結果の検証においてわずかなミスや見落としも許されない.よって,大規模·複雑数値シミュレーションから得られる結果の妥当性·信頼性を向上させ,工学的に有意味な情報を見落とすことなく確実に抽出することを可能とするデータ解析手法の確立は,近年の数値シミュレーション工学の大きな課題と言える.本研究では,データ解析プロセスにおいて研究者の見落としを低減し,データ全体を隅々まで検証することを可能とするために,人間の認識能力の一部を情報科学技術により代用した“認識能力を備えたデータ解析システム”Cognitive methodology based Data Analysis System (CDAS)の概念設計を行った.CDASを実現するためには,情報科学技術によって研究者の認識能力を代行できる手法の考案が課題となる.よって,本論文ではまず数値シミュレーションにおけるデータ解析プロセスを体系的に検討し,妥当性評価のためのVV機能,有意味性評価のためのDD機能,加えてVV機能·DD機能から得られた情報を統合·解釈するためのSynthesis機能を備える必要があること,データ解析に用いる工学情報として設計情報·解析条件·結果データに対応する必要があること,評価·判断のための階層構造に対応する必要があることを見出した.次にCDAS概念を満たす基本機能を具体的に実装するため,VV機能およびDD機能は分散処理システムとし,Synthesis機能と併せたシステム構成図を設計し,評価·判断機能として必要な情報を「観点」概念により構築する妥当性·有意味性の判断システム,および解釈機能として科学的知見を数値化し解釈ルールを構築する手法を提案した.さらに,CDASを有限要素法による構造解析の結果データに適用することでその実現可能性を確認した.

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© 2008 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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