日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
ガス突出の動力学モデル
—局所開放系を仮定したモデルの導出とその数値シミュレーション—
往岸 達也梅村 章
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2008 年 2008 巻 p. 20080019

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抄録
埋蔵量が多く安価な石炭は,現在もなお有用な1次エネルギー源であり,世界の採炭地では,今も操業が続いている.ガスを多く含有する炭層では,しばしばガス突出が発生し,大きな災害をもたらす.ガス突出は,地圧またはガス圧によって1次破壊が生じた炭層中の微小空間に,メタン等の石炭吸着ガスが遊離し,高圧ガス帯の力学的平衡が破れ,2次破壊として石炭塊とガスとの混相媒体が一挙に突出する力学現象である.保安技術の確立を図るためには,この現象の力学的メカニズムを把握し,災害の予知,防止技術の向上を果たすことが望まれる.しかしガス突出現象では,炭層内のパラメータが多岐にわたり,また混相媒体の運動に対し,ガス脱着等の特異な物理現象が関与するため,例えば連続体近似による計算工学的解析は困難であった.先に筆者らは,栓列流モデルと称する力学モデルを提案し,ガス突出現象の動力学的特性について論じた.このモデルは,1次破壊が進行した炭層の部分系を,固体部分と気体部分に集中化させ,2次破壊である石炭塊とガスとの突出現象を,ラグランジェ的に追跡するモデルである.現象の特性として一次元運動として記述できる場合,このモデルは,あたかも管中に固体栓と気体栓を交互に並べた栓列で構成される.筆者らは前報において,部分系を孤立系と仮定し解析を行った.しかし孤立系の仮定が通用しないタイプのガス突出現象も存在する.この要因は2つあり,1つは現象進行中の石炭からのガスの脱着であり,他の1つは部分系間でのガス流の存在である.本報では,これらのタイプのガス突出現象を記述するため,栓列流モデルの部分系を開放系に拡張し,ガス脱着およびガス流を考慮するモデルに改め,新たに加わったパラメータによる,ガス突出現象の動力学的特性について論じた.本報では,先ずガス脱着,およびガス透過という概念で導入されるガス流の影響を記述する,支配方程式の導出を行った.次に計算に必要な幾つかの条件を提示し,具体的な計算方法について紹介した.この後このモデルによるガス突出現象のシミュレーションを実行し,系を支配する開放系パラメータの作用を中心に,最大運動固体栓数および最大突出固体栓数等の特性,さらに破壊面進行速度および突出持続時間等の特性の把握を行った.この結果ガス突出現象に対する,ガス脱着,ガス透過の果たす基本的な作用を理解した.最後に他者が行ったガス突出の室内実験に対し,栓列流モデル解析結果との比較検討を行い,概ね実現象を記述することを確認した.
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© 2008 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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