抄録
本論文では粘弾性面内波動問題における演算子積分時間領域境界要素法とその高速多重極法の適用について検討する.線形粘弾性体の波動問題を時間領域で境界要素解析する際の最大の問題点は,境界要素解析で必要な時間領域の基本解を解析的に求めることができないという点にある.そのため,通常の手順で時間領域境界要素法を構成することが難しく,時間領域境界要素法の影響マトリックスを周波数領域境界要素法の影響マトリックスから積分変換により直接数値的に求める方法や,時間領域境界要素法の影響関数を周波数領域問題の基本特異解の積分変換により数値的に求める方法が用いられてきた.しかしながら,これらの解析手順は複雑であり,より扱いやすい線形粘弾性波動問題における境界要素法の定式化が望まれる.このような中,近年,著者らはLubichが提案した演算子積分法(Operational Quadrature Method)を時間領域境界要素法に適用した演算子積分時間領域境界要素法と高速多重極法を用いたその高速化に関する研究を行ってきた.この型の時間領域境界要素法では,直接に時間領域基本解を用いないため,線形粘弾性波動問題のような閉じた形で時間領域基本解を求めることができない問題に対しては,特に有効であると思われる.本論文では,前論文での面外波動問題の報告をもとに,粘弾性面内波動問題における演算子積分時間領域境界要素について解説する.さらに,高速多重極法の適用法についても述べ,数値解析例と共に本手法の有効性を確認する.