日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
応答曲面法を利用した材料探索技術の開発
野中 紀彦岩崎 富生
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2012 年 2012 巻 p. 20120009

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抄録
グローバル事業を展開していくためには, 市場の要求に素早く対応できるスピードと品質が設計開発に要求されている. これを実現するためには, 解析主導設計の徹底活用が急務である. 設計開発期間の短縮化に大きく寄与するシミュレーションを活用した設計探査, 最適設計技術は極めて重要となっている. このため, 機械構造物を対象とした最適化手法は数多く提案されている. 一方, 材料探索において, 分子動力学的シミュレーション技術の発達により, 材料の拡散係数などの物性値を予測することが可能になっている. しかし, 材料の決定のために全ての材料のシミュレーションを実施するため, 非常に多くの時間を費やしていた. このため, 材料選定期間の短縮化が必要である. そこで本研究では, 短時間で材料選定を行うことを目的として, 応答曲面法を利用した材料探索技術を開発した. 本報では, 本技術の概要と共に適用例を報告する.
材料探索とは, 与えられた材料の中から拡散係数などの指標となる物性値が小さい材料を選定することである. このため, 最適化技術を適用することにより, 所望の材料を効率的に見出すことができると考えられる. 最適化計算では, 繰返し計算を行うため, 最適化時間の短縮化が課題であり, その解決方法として応答曲面法を利用した最適化手法が提案されている. 応答曲面法は, 設計空間内を補間関数により近似し, 通常のシミュレーションに代替して, 補間関数により短時間で応答値を得るものである. そこで本研究では, 応答曲面法の材料探索への適用を検討した. 応答曲面法は連続関数を仮定している. しかし, アルミニウム, 銅などの材料の物性値は, 原子番号表から離散的である. ここでは材料間の物性値は連続的変化すると仮定し, 応答曲面法を適用した. 応答曲面モデルは, 2次関数近似モデルや, ニューラルネットワークの一種であるRBF(Rational Basis Function)モデルなど数多く存在する. ここでは, 近年注目されているKriging Modelを利用し, 少ないサンプリング点で設計空間を近似することで, 目的関数が最小となる材料を探索する.
表面弾性波フィルタのコンデンサ構造において, 強誘電体膜LiNbO3に接触して形成する電極膜の選定問題へ適用する. 電極膜は, マイグレーションという拡散起因の気泡が発生しないように界面での自己拡散係数ができるだけ小さい材料を選ぶ必要がある. そこで, 自己拡散係数が最小となる材料を選定する. このとき, 探索対象の材料として31種類の元素を選んだ. 設計変数は, 元素の主な材料物性値である短辺, 長辺の格子定数, 融点, 凝集エネルギーであり, 目的関数は自己拡散係数である. 31種類の材料に対して, 材料探索を実施した. 従来全ての材料において分子動力学的シミュレーションを実施して材料選定をしていたが, 本手法により10ケースの計算で選定できることを確認した. これにより, 材料探索時間を1/3に短縮化できることを確認した.
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© 2012 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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