日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
フェライトを装荷した金属導波管のトポロジー最適化
乙守 正樹山田 崇恭泉井 一浩西脇 眞二小木曽 望
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 2013 巻 p. 20130014

詳細
抄録
金属導波管は効率良く電磁波を伝搬させる機器として, 主にマイクロ波通信装置に用いられている. その金属導波管において, 所望の電磁波の伝搬特性を得るために, 誘電体やフェライトを内部に装荷した導波管が実用化されている. 例えば, 誘電体を内部に装荷した導波管では, 特定の周波数において電磁波を遮断させる帯域遮断フィルタや, 2つの出力ポートを有し, 電磁波を所望の電力比に分割して出力するT分岐などがある. さらに, フェライトを内部に装荷した導波管では, フェライトの非可逆性を用いて, 電磁波の伝搬方向によって動作の異なる機能を持たせることが可能で, 例えば, 一方向のみに電磁波が伝搬し, 逆方向には伝搬しない単向管や, 3つ以上のポートを持ち, どのポートから入射した電磁波も右隣もしくは左隣のポートに出力するサーキュレーターなどの設計を可能とする. またフェライトは外部磁場を印加した場合に, 周波数に依存した比透磁率を持ち, その周波数特性が外部印加磁場の大きさにより変化する特徴を持つため, フェライトを装荷した導波管の特長として, 動作周波数の可変性が挙げられている.
そのような導波管内部に装荷した誘電体やフェライトなどの形状設計において, 数学的および力学的根拠に基づいて統一的な設計を行う手法として, トポロジー最適化の適用が考えられる. Hirayama et al.は, 密度法に基づくトポロジー最適化を用いて, 導波管内部の誘電体の最適構造を求める手法を構築し, 帯域遮断フィルタおよびT分岐の最適設計問題に適用している. さらにNishiwaki et al.は, 密度法に基づくトポロジー最適化を用いて, 所望の周波数において電磁波を効率的に伝搬させるため, 伝搬定数の最適設計手法を構築し, 導波管断面の誘電体分布の最適構造を得ている. トポロジー最適化では, 0から1までの値をとる連続した密度を用いて最適な材料分布, すなわち最適構造を表現するため, その密度が中間値となる, いわゆるグレースケールを許容することになる. このグレースケールで構成される構造は, 数学的および物理的な解釈は可能であるものの, 実際には製造が困難であるため, 工学的には意味を持たない構造と言える. そのためフィルタに基づく方法などでグレースケールを除去する方法が提案されているが, 本質的な解決には至っていない.
一方, グレースケールの問題を本質的に解決可能な方法として, レベルセット法による形状表現に基づくトポロジー最適化手法が提案されている. この方法では, レベルセット関数のゼロ等位面により物体の外形形状を陰的に表現するため, 上述のグレースケールを本質的に除去できる特長をもつ. 山田らは, 区分的に一定値となるレベルセット関数を用いて, チコノフ正則化により最適化問題の正則化を行い, 反応拡散方程式を解く問題に置き換える方法を提案している. この方法では, 孔の数が増加するようなトポロジーの変更が可能であり, さらには正則化の度合いを設定することにより, 最適構造の幾何学的な複雑さを定性的に設定することが可能である.
本研究では, レベルセット法に基づくトポロジー最適化を用いて, 比透磁率と比誘電率がともに異なる材料を扱うため, 比透磁率と比誘電率の両方の空間分布を考慮した方法論を構築する. 構築した手法を用いて導波管フィルタ設計問題に適用し, さらに, T分岐など複数のポートを持つ機器の最適化問題の定式化を行う. フェライトの透磁率はLandau-Lifshitzモデルを用いて表現し, 有限要素法を用いて電磁波伝搬問題を解くことで導波管の特性を求める. 最後に本報で提案する手法を, 導波管フィルタおよびT分岐の最適設計問題に適用し, 構築した手法の有効性と妥当性を検証する.
著者関連情報
© 2013 The Japan Society For Computational Engineering and Science
前の記事 次の記事
feedback
Top