日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
CIP-Soroban法における高精度低メモリー消費補間法
中村 恭志安嶋 大稀
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2016 年 2016 巻 p. 20160014

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抄録
移流方程式の数値解析手法であるCIP-Soroban法に向けた新しい空間補間手法を提案した. CIP-Soroban法は, 非構造動的適合格子であるSoroban格子と高精度空間補間法であるConstrained Interpolation Profile/Cubic Interpolated Profile (CIP) 法を組合わせた差分解法であり, 近年様々な分野において適用が進められている. Soroban格子では格子平面と格子軸を用いて格子点を階層的に配置する. その結果, 高次元空間の補間はx,y,z方向それぞれへ1次元CIP補間を繰返す簡潔なアルゴリズムで実現できる. しかし, CIP法は空間3次精度補間を空間微分を用いて行うため, 上記のx,y,z各方向への補間計算では, 1次元CIP補間を行う方向に垂直な方向への微分 (直交方向微分) を計算する手法が別途必要とされる. 従来の直交方向微分の計算は, 空間1次精度の線形補間で行う方法 (Type-M補間) と, 高階微分を用いて直交方向微分にCIP補間を適用する方法 (Type-C補間) の二つが使用されてきた. しかし, Type-C補間はType-M補間に比べ計算誤差が小さい反面, 高階微分を格子点に記憶する必要があり, 必要とする計算機メモリー量が増加する. 3次元空間の解法ではType-C補間のメモリー量はType-M補間の2倍に達するため, 従来高次元空間の解法には計算誤差の大きいType-M補間がしばしば利用されてきた. 本論文では, 近年Fukumitsuらにより提案された新たな補間手法であるType-F補間に着目し, これを非構造格子であるSoroban格子へ適用することで, Type-M補間と同じ消費メモリー量でType-Mよりも計算誤差の少ない新たな補間手法を提案した. まず, 2次元空間を取り上げ, 直交格子を対象に提案されている従来のType-F補間をSoroban格子に適用する方法を提案した. 提案手法ではSoroban格子の隣接する格子軸上に一時的な参照点を設け, それらから作られる仮想的な直交領域にType-F補間を適用する. それにより, 提案手法では高階微分の記憶が不要となり, 消費メモリー量をType-M補間と同量に抑えることができる. さらに, 提案手法では直交方向微分をType-M補間よりも高い空間3次精度で計算することが可能となる. 提案手法を2次元移流方程式の解法に適用し, 計算誤差と計算負荷についてType-M補間, 及びType-C補間と比較を行った. まず, 動的な格子再配置を用いない静的なSoroban格子を用いた計算を行い, 提案手法による解法が空間3次精度を持つこと, 計算誤差はType-Cに比べ大きいもののType-M補間よりも小さいこと, 解法に必要とされる実行時間がType-C補間よりも短縮されることを確認した. さらに, 格子の動的適合を伴う計算を行い, 動的適合を伴う解法でも提案手法が上記特徴を持つことを確認した. 本論文の最後では, 提案手法の3次元Soroban格子への拡張方法を提案した. 3次元Soroban格子においても格子平面上に一時的な参照格子点を設けることで, 2次元Soroban格子の場合と同様に直交方向微分の計算が可能であることを示し, Type-Fに基づく高階微分を用いない3次元Soroban格子の補間法を提案した. 提案手法では高階微分を用いないため, 3次元の解法では従来のType-C補間に比べ消費メモリー量は半分となる. 3次元移流方程式の計算を行った結果, 提案手法によりType-M補間より計算誤差が少ない解法が可能となること, また, 実行時間はType-C補間に比べ半分程度に短縮され, 高速な解法が可能であることを確認した.
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© 2016 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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