日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
加齢に伴う嚥下時の呼吸の変化
鎌倉 やよい杉本 助男深田 順子
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1998 年 2 巻 1 号 p. 13-22

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抄録

高齢者の嚥下障害に対する援助技術を開発するための基礎研究として,加齢に伴う嚥下時の呼吸の変化を検討した.研究参加の同意が得られた被験者は,若齢群20人(年齢19.5±2.7歳),初老群10人(年齢64.8±3.2歳),高齢群17人(年齢85.6±2.9歳)であった.常温水10mlを嚥下した時の呼吸軌跡と舌骨上筋群の表面筋電図を同時に測定した.そして,嚥下時の呼吸型を分類し,その発現率を統計的に比較した.さらに,安静時の呼吸周期と嚥下性無呼吸の持続時間を3群間で比較した.筋収縮持続時間,最大筋放電値,平均筋放電値,積分値を若齢群と高齢群の間で比較した. 呼吸型は,単独嚥下では無呼吸後に呼気を後続する型(eae,ae,iae)と吸気を後続する型(eai,ai,iai)の6つの型に分類された.3群ともeae型(呼気-無呼吸-呼気)の発現率が最も高かったが,若齢群(60.5%)と初老群(64.3%)に比較して高齢群(42.6%)では有意に低かった(P<0.05).呼吸周期の持続時間は若齢群(4.39±1.10sec),初老群(3.50±0.63sec),高齢群(2.95±0.44sec)の順に有意に短縮した(P<0.01).嚥下性無呼吸の持続時間は若齢群(0.94±0.20sec)と初老群(1.02±0.20sec)に比較して,高齢群(1.36±0.46sec)では有意に延長した(P<0.01).筋活動との関係では,高齢群では筋収縮開始から最大筋放電までの時間と筋収縮開始から無呼吸開始までの時間が有意に延長した(P<0.01).さらに,若齢群では,無呼吸開始から0.04±0.08sec後に最大筋放電が生じ,無呼吸開始と最大筋放電がほぼ一致していた.高齢群では無呼吸開始から0.26±0.30sec後に最大筋放電が有意に遅延して出現した.また,平均筋放電値と積分値は,高齢群において有意に増加したが,最大筋放電値は差がなかった. これらの結果から,加齢に伴い嚥下時の呼吸型と嚥下性無呼吸時間が変化することが示唆された.

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© 1998 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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