抄録
プラズマショット法, 微小なパルス放電を用いて電極材を基材表面に移行させることで機能性表面を創成する新しい技術である. 炭化チタン(TiC)の焼結体を電極とした場合, 耐摩耗性に優れた厚さ10μm程度の硬質なTiC改質層を形成することができる. そのため, 本改質層を金型や治工具に適用することで, それらを長寿命化する効果が得られている. 熱変形が少ないことや密着性が高いこと, 部分処理が可能であることなどが本手法の特長であり, 近年では, これらの特長を生かして新たな分野や用途での適用が期待されている.
しかしながら, 適用対象によっては要求される機能性や表面形状が不十分な場合があり, 新たな機能性創成や表面形状制御が必要となっている. これらを行うためには, 本手法の素過程である単発およびその重畳のプラズマショット現象を十分に把握することが必要であるが, 油中において微小間隙で生じること, 極短時間での材料移動や溶融凝固を伴うことなどから, 直接観察や計測が困難であり, 十分に解明されていない. そのため, 本現象の解明には計算技術を駆使したシミュレーションが重要視される. そこで, 本研究では, 超大変形や境界移動のダイナミック表現に優れるSPH粒子法を用いて, 本現象に関する数値解析シミュレーション技術を開発した.
本解析では, 流動解析, 伝熱解析, 濃度拡散解析を弱連成させ, 相変化の判定を加えて一連の解析を繰り返した. その結果, 単発ショット部の濃度分布・温度分布・相分布を1.0×10-9 sごとに3次元で可視化でき, 形状と濃度の解析結果は実験結果を比較的良好に表現していることから, 本解析手法によって妥当な解析結果が得られることが示された. また, 実測が困難なショット部の任意の位置の温度の経時変化の予測が可能となり, 材料の機能性に影響する組織に対して重要である冷却速度は, ショット部では108 K/s程度であると予測された.
次に, ショット重畳の解析により, ショット重畳によって生じた液相または凝固過程の盛り上がり部の数μm程度の高低差が, 凝固時にそのまま残ることで, ショット部表面に高低差が形成されることが示された. また, ショット重畳部の形状の解析結果は実験結果を良好に再現していることから, ショット重畳の現象に対しても, 本解析手法によって妥当な解析結果が得られることが示された.
以上より, 開発したシミュレーション技術によって単発ショットおよびショット重畳の現象を良好にシミュレーションできることが確認できた. 物性値や入力条件を変更することで, 電極材や基材の材質が異なる場合のプラズマショット現象に対しても, 構築したモデルにより解析可能と考えられる.