日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
2018 巻
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  • 池端 昭夫, 清水 友哉, 肖 鋒
    2018 年 2018 巻 p. 20180001
    発行日: 2018/01/23
    公開日: 2018/01/23
    ジャーナル フリー
    衛生陶器などの住宅設備機器の設計におけるもっとも重要な課題の一つに、節水化が挙げられる。節水商品を設計する際の鍵は、より少ない水量においても十分な洗浄性能を発揮することである。この目的のために、衛生陶器のセラミック表面に十分な洗浄力を持った薄い水膜を供給することが効果的な方法であり、新しい節水商品設計において考慮されるべき点である。他の多くの製造業と同様に、TOTOにおいてもComputer Fluid Dynamics (CFD) 技術は主要なComputer Aided Engineering (CAE) ツールとして新製品の設計や評価に用いられてきている。製品開発プロセスにおける多相流シミュレーションでは、既存の市販CFDソフトウェアを用いても適切な計算精度や計算効率が得られなかったため、ここ数年にわたり自社製CFDコードの開発を進めてきた。以前のバージョンでは直交格子計算手法およびGeneral Purpose Graphic Processor Unit (GPGPU) や Message Passing Interface (MPI) 並列計算などのHigh Performance Computing (HPC) 技術を利用していた。しかしながら、GPGPUスーパーコンピュータ上での1億メッシュ以上の格子を用いた高解像度シミュレーションにおいても、直交格子計算手法では衛生陶器の曲面表面の薄膜流れを十分な精度で計算できないことが分かった。
    この直交格子の欠点を克服するため、本論文では衛生陶器における気液二相流をシミュレートする新しい非構造格子数値計算モデルを提案する。衛生陶器製品の曲面表面における薄膜流れを精度良く解くために、Volume/Surface-Integrated Average based Multi-Moment Method (VSIAM3) およびSurface Tracking by Artificial Anti-diffusion (STAA) 法を非構造格子に拡張した。この手法により、数値計算モデルにおいて複雑な形状における気液二相流れを高精度にシミュレートすることが可能となる。VSIAM3では、二種類のモーメント値、すなわちVolume Integrated Average (VIA=体積積分平均値) およびSurface Integrated Average (SIA=面積分平均値) を利用することで、従来のTVD法のような空間線形補間とは異なる、より高次精度の空間補間再構築を実現している。非構造格子の各面における数値フラックスの計算のために、面の法線方向に一次元の補間関数を再構築することで、VSIAM3アルゴリズムは容易に任意多面体非構造格子に拡張できる。一方STAA法においては、気液界面の法線方向への人工的な反数値拡散フラックスにより流体率を補正することで、界面の幾何的誤差を生じることなく界面近傍の数値拡散を抑制する簡易なアルゴリズムを構築した。界面の幾何的情報はレベルセット関数から得られ、レベルセット関数は流体率から生成される。ベンチマークテストにおける数値計算結果では、VSIAM3およびSTAA法ともに市販ソフトやオープンソースコードで広く用いられている既存手法よりも優れた精度が得られている。VSIAM3およびSTAA法を移流計算および気液界面捕獲ソルバーに用い、非構造格子におけるフラクショナルステップ法に基づいた多相流解法のための数値計算フレームワークを構築した。
    我々の数値計算コードは、最新のコンピュータハードウェア技術を最大限利用するためにHPC環境に移植された。この数値計算フレームワークのアルゴリズムの簡易性により、GPGPUアクセラレーションやMPI並列計算への実装は極めて容易である。我々は衛生陶器製品における複雑流路の非構造格子モデルを用いて計算効率のテストを実施した。本テストにより、一般的なPCクラスタにおいて、GPGPU加速率および並列計算スケーラビリティの両方において新しく開発されたコードは十分な性能を発揮することが分かった。ベンチマークテストの結果では、薄膜流れや飛沫および気泡の複雑な動きを再現できた。衛生陶器の実製品条件における検証では、以前の構造格子のときよりも大幅に少ない非構造格子数において製品表面の薄膜流れの動きが適切にシミュレーションできるようになった。
  • 真鍋 圭司
    2018 年 2018 巻 p. 20180002
    発行日: 2018/01/23
    公開日: 2018/01/23
    ジャーナル フリー
    板の曲げ問題は工学的に重要な問題であり, 有限要素法によって板の曲げ変形を解析する手法はさまざまなものが開発されてきた. 中でも, ミンドリン板要素は, 面外せん断変形を考慮するため, 板厚が比較的厚い問題も取り扱うことができるなどの利点がある.
    ミンドリン板の有限要素解析においては, たわみと回転角を未知数とした解析を行う. しかしながら, 板厚が小さいときに, 面外せん断剛性が曲げ剛性に比べて過大になるという, せん断ロッキングが問題となる. すなわち, ミンドリン板解析において薄板の曲げ解析を行う場合には, 特別な工夫が必要である. その解決法として例えば, 面外せん断の部分を選択して積分点を少なくする選択低減積分の手法や, 面外せん断に対して異なった補間を行う手法が開発されてきた. このようにせん断ロッキングは, 曲げとせん断の部分に対して, 別の処理を行うことが必要である.
    ところで, 流体問題における有限要素法による解析では, GLS (Galerkin Least Square:ガラーキン最小自乗法) という手法が成功を収めている. それは, 流体解析において生じる上流化の問題や, 非圧縮性の問題を解決するために, 支配方程式の自乗形式を安定化項として汎関数に追加することによって精度のよい解析を実現するものである. この手法では, 節点の変数としてラグランジュ乗数が追加される混合型の有限要素法となる. そしてラグランジュ乗数を含む, すべての未知数に対して同じ形状関数(補間関数)を使用することができる. 従って, 三角形1次要素 (P1要素) や, 四辺形双一次要素 (Q1要素) を使用することができる.
    三角形要素においては自動要素分割法が確立している. たとえばデローニ自動分割法はその代表である. これを用いれば, 複雑な形状のモデルでもメッシュ作成が簡単にできる. ミンドリン板の解析においても1次の三角形要素を使用することができれば, 要素分割の際に有利である. そこで本報告では, 計算流体工学の分野で成功を収めているGLSの手法を, ミンドリン板の解析に応用する. そして, ミンドリン板の変形に関して, 曲げと面外せん断の部分に対して, 別の処理を行うことなく, せん断ロッキングを回避することを目的とする.
    本報告においては, ミンドリン板の変形問題に対して, 混合型の汎関数を導いた. 通常のミンドリン板の解析の汎関数は, 曲げと面外せん断に関してエネルギー関数を定義し, z-変位と, 回転角を未知数とする. すなわち変位法である. ここでは, 胡-鷲津 (Hu-Washizu) の原理により, 面外せん断ひずみの関係式をラグランジュ乗数によって外す. さらに, ヘリンガー-ライスナー (Hellinger-Reissner) の原理を用いて, 補足せん断ひずみエネルギーを導入し, せん断ひずみを消去して新しい汎関数を考える. この汎関数は未知数が変位と, さらに面外せん断応力を追加した混合型となる.
    そのようにして導かれた汎関数が停留するための条件から, オイラー方程式を導いた. その最小自乗の項を考え, GLS安定化項として汎関数に加えて定式化した.
    計算例として周囲固定の円板に, 等分布荷重を作用させる場合の問題を取り上げた. 有限要素モデルは, デローニ自動要素分割法によって作成した. すなわち, 直径 200 mm の円板に対して, 粗, 中, 細の3種類の要素分割モデルを三角形および四辺形によって作成した. そのモデルの板厚tが 10, 5, 1 mm の場合について, 等分布荷重による変形解析を行った.
    まず通常の変位型定式化のミンドリン板の解析を行ったが、せん断ロッキングのため非常に精度が悪い結果が得られ、GLS項の必要性が確認された。そこで混合型定式化を用い, GLSの安定化パラメータをさまざまに変化させ, 円板の中心部の最大たわみについて, 計算結果を理論解と比較した. その結果, 板厚が薄い場合はせん断ロッキングが生じるが, 安定化パラメータをある程度大きくすれば, せん断ロッキングが解消されることが明らかになった.
    そして, 板厚が薄い場合 (t=1mm) について, 円板の内部の節点のたわみや, 要素の曲げモーメント分布を, 薄板の解析解と比較することによって, GLSの精度について検証した. その結果, 中ぐらいの粗さの要素分割においても, 三角形, 四辺形要素の両方において解析解とほぼ同じ値を得ることができた.
    以上のことから三角形, 四辺形要素の両方において, GLS有限要素法はせん断ロッキングを回避するために有効であることが明らかになった.
  • 池田 義人, 遠藤 龍司, 登坂 宣好
    2018 年 2018 巻 p. 20180003
    発行日: 2018/02/23
    公開日: 2018/02/23
    ジャーナル フリー
    建築構造物の耐震性能を評価するための構造ヘルスモニタリングは重要である. 筆者らは, フィルタを逆解析アルゴリズムに援用した手法を提案しており, フレームモデルを対象に各層の剛性を状態量, 固有振動数を観測量とした逆解析結果を報告してきた. このときの観測量は, 状態量の数と同一の次数に対応する高次の振動モードまでを用いてきた. 例えば, 実験モデルとして作製したフレームモデルでは, 3層フレーモデルなら3次モードまで, 5層フレームモデルなら5次モードまでの固有振動数を励起させることで, 観測量として採用してきたものの, 現実の構造物を対象とした場合には, 高次モードまでの固有振動数を観測できる可能性は極めて小さい. しかし, 逆解析の精度を保つためには, 未知数である状態量の数と観測量の数が一致することが望ましい.
    そこで, 本研究では, 3層フレームモデルおよび5層フレームモデルを対象として, 1次振動モードから得られるモード形の情報と固有振動数を観測量として, すべての層の水平剛性を同定する手法を提案する. なお, 本逆解析で採用するフィルタは, 状態量と観測量の数が等しいとき, 感度行列のみで表現できる射影フィルタである. これにより, 本逆解析手法の有効性および特性に関して, 感度行列に着目した検証を行うことにする.
  • 神田 康行, 福本 功
    2018 年 2018 巻 p. 20180004
    発行日: 2018/03/23
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    近年, 地球環境保護の高い社会的要請により, ウッドセラミックスのような植物に由来したカーボンセラミックス複合材料の研究開発がなされている. 著者らは, 植物由来カーボンセラミックス複合材料の高強度化と産業副産物であるサトウキビバガスの有効利用を目的に, バガス灰と炭化バガス繊維の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料を放電プラズマ焼結法により作製している. その結果, 不均一な長さの炭化バガス繊維の界面接着状態は, 溶融固化したバガス灰のバインダー効果により保持時間および炭化バガス繊維が長くなると向上することを明らかにした.
    植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料では, 不均一な長さの強化繊維が母材内を分散することで幾何学的には複雑な内部構造を形成する. このような複合材料の内部構造に対して均質化法は, 周期性の仮定が難しいことから不向きと考えられる. そのため, 三角形要素による要素分割の適用が望ましいが, セラミックス複合材料の強度評価には曲げ試験が適用される. 三節点一次要素を用いたFEM解析は, 曲げ変形の解析精度が不十分である. また, FEM解析に母材と強化繊維間の界面接着を取り入れる方法に界面要素の適用があるが, 二重節点の作成が不要な界面要素は, 要素分割時の効率化や直接法ソルバーとの親和性向上の観点から有効である.
    以上のことから, 本研究では, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する高精度化, 要素分割時の効率化や直接法ソルバーとの親和性向上を目的とし, 曲げ変形の解析精度を高めた回転自由度を有する三節点三角形要素 (以降, RGNTri3と称す) に拡張有限要素 (以降, XFEMと称す) のヘビサイド関数を界面節点にのみ適用することで, 回転自由度を有する三角形界面要素 (以降, RGNTriI3と称す) を開発した. RGNTriI3は, 二重節点の作成が不要であり, その要素剛性マトリックスは三角形要素と界面要素から構成されている. そのため, 本研究ではRGNTriI3を「三角形界面要素」と呼んでいる. 本論文では, まず, RGNTri3を用いた界面要素の剛性マトリックスをペナルティ法により導出している. 次に, RGNTri3の変位関数にXFEMのヘビサイド関数を適用し, RGNTriI3の三角形要素と界面要素の剛性マトリックスを定式化している. そして, 基礎的な数値解析例として, 繊維間距離が短い複合材料モデルにおける三角形一次要素とRGNTri3の解析精度およびRGNTriI3のペナルティ数を変化させた際の片持ち梁の変位解に対する差を検討している. 最後に, 提案法の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料に対する有効性の検討として, バガス灰と不均一な長さの炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展解析を行った. すなわち, FEM解析モデルを試験片観察および三点曲げ試験結果より作成し, 強化繊維の界面接着状態と分散状態を変化させたFEM解析より得られた三点曲げ試験における最大主応力, 曲げ強度およびき裂進展挙動を議論した. 本論文で得られた結論は以下のとおりである.
    (1) RGNTriI3における界面要素は, 従来の界面要素と同じ解析性能であるため, 要素分割時に界面の二重節点の作成が不要であり, 一次要素よりも高精度であることが示された.
    (2) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の最大主応力は, 強い界面接着では界面の強化繊維側, 弱い界面接着では界面の母材側に発生した. このことから, 母材のバインダー効果に起因する界面接着状態の変化を反映した母材と強化繊維間の応力伝達が解析可能であると認められた.
    (3) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の曲げ強度は, 強い界面接着では実験結果と良く一致し, 弱い界面接着では実験結果よりも低くなり, いずれの場合も母材内の強化繊維の分散状態の変化に伴い変動した. このことから, 強化繊維の界面接着状態と母材内への分散状態の変化に伴い, 曲げ強度が変動する解析結果が得られた.
    (4) バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展挙動として, き裂発生は, 母材と強化繊維間における応力伝達の差異により, 強い界面接着状態では界面の炭化バガス繊維側, 弱い界面接着状態では界面の母材側から発生した. その後, 両状態におけるき裂は, 炭化バガス繊維を貫通しながら試験片内部を進展する力学挙動が解析された.
    以上のことから, RGNTriI3を用いることで, 要素の頂点節点のみで曲げ変形に対して高精度な解析性能を有し, 要素分割時に二重節点の作成が不要な界面要素を取り入れたFEM解析が可能になり, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する有効性が明らかになった.
  • 松下 真太郎, 青木 尊之
    2018 年 2018 巻 p. 20180005
    発行日: 2018/03/27
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー
    気液二相流の数値シミュレーションは, 未だに数値流体力学的課題の多いテーマである. 近年のコンピュータの著しい性能向上に伴って, 流体方程式と界面追跡の方程式を直接解くことによる解析がなされてきている. しかし, 格子を増やすと新たな水滴や気泡が生じるなど, 解の収束性に至る十分な格子解像度で計算することは非常に困難である. 一般に気液二相流は界面近傍が激しく運動し複雑な挙動を示すため, 界面挙動を精度よく捉えるためには多くの格子が必要である. 界面近傍をより高解像度で効率的に計算するために, 細かい格子が必要となる領域に格子を集めることのできるAdaptive Mesh Refinement (AMR) 法を気液界面に適用することが考えられる. 総格子点数を大幅に削減することができ, 界面近傍をより高解像度で計算することが可能となる. 直交格子上で界面を追跡する手法として, レベルセット法, VOF法が広く用いられてきた. しかし, 激しい流れでは液体よりVOF値は小さいが気体より大きな値を持つ領域が気体中を浮遊する問題などが生じてしまう. 近年, 新たなアプローチとして保存形フェーズフィールド法が提案されており, 本研究では界面捕獲手法として良い結果が報告されている保存形Allen-Cahn方程式を用いる. マルチモーメント法である保存形IDO法を用いて保存形Allen-Cahn方程式を解くことにより, 格子点上に変数を配置しながら気相と液相の質量保存性を担保する. 保存形マルチモーメント法では格子点上の値に加えて線積分値や面積分値といったモーメントが時間積分される変数として定義されている. レベル差補間の際にはコンパクトな領域で精度の高い補間関数を構築可能であり, AMR法に適した手法であると言える. また, 界面が時間とともに動く場合には保存形Allen-Cahn方程式の時間微分項に流束の微分項が加わる. フェーズフィールド変数に対する連続方程式と保存形Allen-Cahn方程式に分離して解くことにより, 連続方程式に対してはCIP-CSLR1法を, 保存形Allen-Cahn方程式には保存形IDO法を用いることができる. 分離した式はいずれも方向分離法で各々の方向に対する1次元の式を繰り返し解くことができ, 連続方程式の解法に精度の高いセミ・ラグランジアン法が適用可能である. AMR法適用に際しても1次元方向のみの補間を考えれば良くAMR法の実装が容易な手法となっている.
    本論文では流束項付き保存形Allen-Cahn方程式をマルチモーメント法の解法を高精度で解くために, 木構造に基づいたAMR法により界面の時間的・空間的に追従する動的な適合格子細分化法を導入した. フェーズフィール変数が急激に変化する領域に細かい格子を動的に配置する. ベンチマーク問題としてSingle Vortex問題をレベル0から5までの格子細分化を行って計算し, 最も細かい格子解像度で均一格子を用いた場合と比較して平均で1/12.3に格子点数を削減することができ, 9.26倍に計算を高速化することができた. 界面形状も計算領域全体を均一に細かい格子で計算した場合と同じ精度が出ていることを確認した. マルチモーメント法を用いることによりコンパクトで高精度な補間関数を構築可能であるため, 界面が大変形するような問題に対しても高い精度で計算できる. 本論文の成果は, 気液界面に適合した動的な格子細分化による気液二相流計算に適用可能である.
  • 鷲見 信行, 一宮 正和, 京泉 朋希, 江川 諒仁, 嶋田 慶太, 水谷 正義, 厨川 常元, 山縣 延樹
    2018 年 2018 巻 p. 20180006
    発行日: 2018/03/28
    公開日: 2018/03/28
    ジャーナル フリー
    プラズマショット法, 微小なパルス放電を用いて電極材を基材表面に移行させることで機能性表面を創成する新しい技術である. 炭化チタン(TiC)の焼結体を電極とした場合, 耐摩耗性に優れた厚さ10μm程度の硬質なTiC改質層を形成することができる. そのため, 本改質層を金型や治工具に適用することで, それらを長寿命化する効果が得られている. 熱変形が少ないことや密着性が高いこと, 部分処理が可能であることなどが本手法の特長であり, 近年では, これらの特長を生かして新たな分野や用途での適用が期待されている.
    しかしながら, 適用対象によっては要求される機能性や表面形状が不十分な場合があり, 新たな機能性創成や表面形状制御が必要となっている. これらを行うためには, 本手法の素過程である単発およびその重畳のプラズマショット現象を十分に把握することが必要であるが, 油中において微小間隙で生じること, 極短時間での材料移動や溶融凝固を伴うことなどから, 直接観察や計測が困難であり, 十分に解明されていない. そのため, 本現象の解明には計算技術を駆使したシミュレーションが重要視される. そこで, 本研究では, 超大変形や境界移動のダイナミック表現に優れるSPH粒子法を用いて, 本現象に関する数値解析シミュレーション技術を開発した.
    本解析では, 流動解析, 伝熱解析, 濃度拡散解析を弱連成させ, 相変化の判定を加えて一連の解析を繰り返した. その結果, 単発ショット部の濃度分布・温度分布・相分布を1.0×10-9 sごとに3次元で可視化でき, 形状と濃度の解析結果は実験結果を比較的良好に表現していることから, 本解析手法によって妥当な解析結果が得られることが示された. また, 実測が困難なショット部の任意の位置の温度の経時変化の予測が可能となり, 材料の機能性に影響する組織に対して重要である冷却速度は, ショット部では108 K/s程度であると予測された.
    次に, ショット重畳の解析により, ショット重畳によって生じた液相または凝固過程の盛り上がり部の数μm程度の高低差が, 凝固時にそのまま残ることで, ショット部表面に高低差が形成されることが示された. また, ショット重畳部の形状の解析結果は実験結果を良好に再現していることから, ショット重畳の現象に対しても, 本解析手法によって妥当な解析結果が得られることが示された.
    以上より, 開発したシミュレーション技術によって単発ショットおよびショット重畳の現象を良好にシミュレーションできることが確認できた. 物性値や入力条件を変更することで, 電極材や基材の材質が異なる場合のプラズマショット現象に対しても, 構築したモデルにより解析可能と考えられる.
  • 桝井 晃基, 荻野 正雄
    2018 年 2018 巻 p. 20180007
    発行日: 2018/03/29
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
    辺要素有限要素法による時間調和渦電流解析や高周波電磁場解析で得られる複素対称線形方程式の求解においては, 共役直交共役勾配 (COCG) 法などの反復法の収束性が悪いことが知られている. また, 解析する対象が大規模や複雑になるにつれ収束性はさらに悪化する. よって, 電磁場解析を高効率で行うためには, 大規模な複素対称線形方程式に有効な反復法が必要となる. ここで, 実対称線形方程式に対して多倍長精度演算による反復法の収束性改善が報告されている. 特に倍精度変数を2つ用いた倍々精度演算による研究が広く行われており, 最新計算機アーキテクチャに対する最適化などの報告もされている. しかし, 複素数問題に対する研究例は少なく, 電磁場解析に対しても有効であるかは自明ではない.
    そこで本研究は複素対称線形方程式向けの高性能な反復法ソルバー開発を目的として, 倍々精度複素数演算および倍々精度と倍精度の混合精度演算を実装し, 開発システムや既存の多倍長精度演算方式の基本的な計算性能を評価したのち, 混合精度演算を含め多倍長精度演算を用いたCOCG法による複素対称線形方程式の求解システムを開発した.
    今回の開発システムの中で使われる倍々精度演算はKnuthやDekkerのアルゴリズムを用いてエラーフリーな計算に基づいている. 倍々精度演算を利用するものとしてよく使われるものとしてQDライブラリなどといったものがあるが, これは実数における倍精度と倍々精度などの混合精度演算は実装されており, 演算子がオーバーロードされている. しかし, complexクラステンプレートを利用する複素数では演算子のオーバーロード実装が十分ではなく, 効率的なコーディングが難しい問題がある. そこで今回は, 倍精度複素数と倍々精度複素数の混合精度演算を実装し, それに基づく混合精度COCG法を提案・実装をし, 性能評価を行った.
    まず, 高精度演算の基本的な性能評価として, dot積演算にかかる時間を測定した. 高精度演算手法として, 開発システムの他にQDライブラリによる倍々精度・疑似八倍精度演算, C言語におけるlibquadmathによる四倍精度演算を用いて性能評価や比較を行った. その結果, 今回用いた環境においては倍精度に比べて, 開発システムの倍々精度演算で約6.9倍, QDライブラリの倍々精度演算で約8.1倍, libquadmathの四倍精度で約47倍, QDライブラリの疑似八倍精度演算で約76倍の計算時間がかかることが分かった. 次に, COCG法の性能評価として, 対象となる電磁場解析問題に今回はハイパーサーミアの簡易モデルに関する行列を用いた. 開発システムをこの問題に適用したところ, 倍精度演算に比べCOCG法の反復回数を約2/3に減らすことに成功し, 計算時間も約1.5倍の増加で抑えることが出来た. また, QDライブラリの疑似八倍精度を用いるとさらに収束性は改善したが, 計算時間は倍精度と比べ30~70倍ほどに増加し, 倍々精度数の精度で十分であるといえる. さらに, 前処理のパラメータ選択において, 混合精度演算を含めた高精度演算を用いることでパラメータの影響を抑えることに成功し, ロバスト性の高い手法になっていると言える.
    今回は大規模な複素対称線形方程式の求解を高速化することを目的として, 倍々精度及び混合精度の複素数演算を実装しその基本的な計算速度を調査したのち, 係数行列と前処理行列を倍精度とする混合精度COCG法を提案・実装した. その結果倍精度演算に比べ反復法の収束性を改善させ, 大幅な計算時間の増加も抑えることに成功した. さらに開発システムは倍精度演算に比べパラメータフリーな実装になっている. 以上から本システムの有効性を示した.
    今後は, より大規模・複雑な問題に対して適用することで, 提案方式の有効性検証を進めていく. また, Intel AVX命令などを用いた高性能計算技術を活用することで, さらなる高速化の実現を目指す. さらに, 他の反復法や前処理法においても混合精度演算の有効性評価を行っていく.
  • 車谷 麻緒, 佐々木 浩武
    2018 年 2018 巻 p. 20180008
    発行日: 2018/05/17
    公開日: 2018/05/17
    ジャーナル フリー

    鉄筋コンクリートには,大小様々なひび割れが発生する.大きいひび割れは構造物の力学性能を低下させ,たとえ目に見えない小さなひび割れであっても,水やイオンの移動経路となり,鉄筋を腐食させるため,構造物の耐久性を低下させる.鉄筋コンクリートに生じるひび割れは3次元的に発生・進展を繰り返すため,実験的にも,解析的にも,精度よく捉えるのが困難という問題がある.鉄筋コンクリートに発生・進展するひび割れの3次元幾何形状を精度よく再現し,その結果をわかりやすく可視化することができれば,損傷状態の直観的な理解や,複雑な力学機構の解明に役立つと考えられる. 

    本論文では,物理シミュレーションを用いて,鉄筋コンクリート内部に形成するひび割れ進展挙動を3次元で詳細に再現し,その3次元幾何形状を3Dプリンタを用いて立体的に造形化する方法を提案する.物理シミュレーションには,破壊力学に基づく損傷モデルを用いて,著者らが既往の研究で開発した手法を用いる.本研究の新規性および可視化の特徴は,空気の部分に当たるひび割れを立体的に具現化し,通常は見えない部材内部のひび割れ進展挙動まで3次元で詳細に造形化する点にある. 

    第2節では,本研究で用いる物理シミュレーションの定式化について示す.第3節では,鉄筋コンクリートの引張と曲げに関する問題を対象に,部材内部および鉄筋まわりに進展するひび割れを再現し,3Dプリンタを用いてひび割れの3次元幾何形状を造形化した例を示す.最後に,本研究の総括を行い,課題と今後の予定について述べる.

  • 生野 達大, 稲垣 和久, 橋本 学, 奥田 洋司
    2018 年 2018 巻 p. 20180009
    発行日: 2018/08/02
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    主双対内点法に基づく接触解析手法は, 従来の有効制約法に比べ, 接触制約が多数存在するような接触問題に対して有利であるとされ, 近年注目されている. 一方で, 主双対内点法に基づく接触解析手法を有限変形, 特に大変形を伴うような増分解析が必要となる問題に適用する場合, Newton-Raphson (NR) 法反復の初期段階で強い接触反力が生じて計算が不安定になるという問題があった. 本論文ではこの問題を解決するために, 主双対内点法に基づく接触解析手法にウォームスタート法を導入し, NR 法反復の初期段階における接触制約を緩和する手法を提案する. 接触解析における提案手法の収束性を検証するため, 大変形問題を含む種々の問題を解き計算に要した NR 法反復の回数を比較した. 検証の結果, 提案手法は主双対内点法や有効制約法に基づく接触解析手法に比べ収束性に優れることを確認した.

  • Shin B.
    2018 年 2018 巻 p. 20180010
    発行日: 2018/08/02
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    The effect of the flow rate and water level on free surface vortices in a suction sump was studied by using numerical simulation. Free surface flow in an intake channel was solved by using finite volume method for RANS equations with k-ω SST turbulence model. A VOF multiphase model and the open channel model were used to solve the multiphase flow in the sump. Minimum position of air-water interface, air-entrained vortex length, air volume fraction contours and iso-surfaces were used to identify visually the location and shape of the free surface as well as surface vortices. From the numerical investigation with varying flow rate and water level, it was found that when the water level decreased or the flow rate increased, more free surface vortices appeared. The predicted velocity distributions at the entrance of bell mouth and the location of the center core of air-entrained vortices on the free surface were in good agreement with experimental results.

  • 綾見 優斗, 大西 有希, 天谷 賢治, 辻井 雅人, 谷中 雅顕, 米倉 勲
    2018 年 2018 巻 p. 20180011
    発行日: 2018/08/09
    公開日: 2018/08/09
    ジャーナル フリー

    多層フィルムに対する標準的なピール試験におけるピール荷重急落現象のメカニズムを有限要素解析を用いて解明する.

    接着剤により貼り合わされた多層フィルムのピール試験ではピール荷重が速度依存性を持つことが知られており, 高速ピール速度域ではピール荷重が急落する現象が見られる.

    本稿ではまずこの現象を数値的に再現するために有効な2次元有限要素解析のモデル化手法を提案する.

    2層フィルムを例とし, 片方のフィルムを弾性体, もう片方のフィルムを弾塑性体, 両者を繋ぐ接着剤を粘弾性体としてモデル化する.

    剥離界面は結合力要素を用いてモデル化することにより界面の損傷を考慮する.

    時間発展スキームには後退オイラー法に基づく動的陰解法を採用し, 損傷や大変形を伴う非線形性の強い解析を安定化させる.

    次に, 得られた有限要素解析結果を元にピール荷重急落現象の発生メカニズムを考察する.

    考察は応力分布およびエネルギー消費の2つの観点から行う.

    また, ピール荷重はフィルムの曲率半径と負の相関があることも併せて明らかにする.

  • 河合 浩志, 遊佐 泰紀, 岡田 裕, 塩谷 隆二, 山田 知典, 吉村 忍
    2018 年 2018 巻 p. 20180012
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル フリー

    本報告では、ハイパフォーマンス・デザインパターンについて紹介する。これはHPC環境のためのデザインパターンであり、主に比較的サイズの小さな抽象データ型をC,C++,Fortranなどのライブラリとして実装するためのものである。ここでは抽象データ型の一つ一つのデータがそれぞれ複数のスカラー変数の組として表現され、また関連する手続き群については関数やサブルーチンではなく、プリプロセッサマクロとして実装される。例として、連続体力学での利用を想定しベクトル、テンソルや小規模行列演算を対象とするAutoMTライブラリをとりあげ、本手法に基づき性能最適化を行い、またそのベンチマーク結果を示す。

  • 斉木 功, 西井 大樹, 山本 剛大
    2018 年 2018 巻 p. 20180013
    発行日: 2018/09/27
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    幅広の補剛桁や桁間隔の広い多主桁橋では, フランジや床版の曲げひずみはせん断遅れの影響で幅方向に一様でなくなる. せん断遅れを解析するために, せん断遅れによる変位分布を仮定した解析的手法が提案され, 変位分布を級数展開するなど高精度化する方法へと発展した. 一方, 著者らは均質化法を梁に適用することで, せん断遅れの問題を半解析的に解く方法を提案している. 本論文では, この方法により数値的に求めたせん断遅れ変位を組み込むことのできる梁要素を提案する. さらに, 提案手法による解を解析解および有限要素解と比較し, 本手法の精度と有用性を確認した.

  • 劉 暁東, 鵜之沢 均, 加藤 準治, 京谷 孝史
    2018 年 2018 巻 p. 20180014
    発行日: 2018/10/12
    公開日: 2018/10/12
    ジャーナル フリー

    近年, 膨張性粘土鉱物を含む地山の吸水膨張によってトンネルなどの地中構造物が損傷するといった問題が起きている. このような吸水膨潤反応を示す粘土は「スメクタイト類」と呼ばれ, 地中構造物へ過大な応力負荷や変形を与える原因となっている. これより, 現在, 地山材料微視構造レベルの膨張挙動を評価し, 地中構造物の設計維持管理に反映させるべく研究が行われているが, 未だ定量的なアプローチによって応力や変位量の評価を可能にする手法の確立には至っていない. 本研究では, 膨張性粘土鉱物が含んだ岩石の膨張が引き起こす地山膨張を均質化法に基づく(分離型)マルチスケール解析法を適用することで, 地山内に存在する地中構造物への影響を評価する. ただし, 本研究におけるミクロスケールはあくまで供試体レベルを想定している. これは, 膨張性粘土鉱物の膨潤は水分子の吸着のみではなく力学的・化学的要因が混在しており, 計算が煩雑になるとともに膨大な計算コストが必要となるからである.

    本研究は提案した分離型マルチスケール解析法を地山の膨張挙動に適用することで, 地山中に存在する地中構造物への影響を評価する手法を開発する. 分離型マルチスケール解析では, マクロ材料構成則の関数形を仮定することが出来れば, 数値材料実験で得られるマクロ応力-マクロひずみ関係からマクロ構成則に含まれる材料パラメータを最適化アルゴリズムによって同定し, マクロ構造解析が実行可能となる. しかし, 本研究におけるミクロ構造解析では膨潤性粘土鉱物の膨張が引き起こす周囲の岩石基質部の破壊による剛性低下を考慮するが, それらを適切に表現する非線形のマクロ構成則は明らかではない. そこで本研究では非線形なマクロ構成則を定式化することはせず, いくつかの状態点における線形のマクロ応力-マクロひずみ関係を割線的に求める簡便法を提案する. この手法を採用することで複雑な非線形マクロ構成則の定式化が不要となり, 大幅な計算コストを削減することが可能になる.

    本研究では, 膨張性粘土鉱物を含んだ地山の膨張挙動に対して, 等方性損傷構成則を適用することでミクロスケールでの膨潤とそれに伴う岩石の劣化を考慮し, それがマクロスケールにおけるトンネル構造物に与える影響の評価を行った. ここでは, ミクロスケールで発現するであろう膨張を膨潤ひずみを定義し, それに伴う劣化を等方性損傷構成則を用いて表すことを可能にした. さらに膨潤挙動を離散点において解析にすることによって, マルチスケール解析を適用しつつ割線的に非線形問題を解くことを可能とした.

  • 干場 大也, 小川 竣, 加藤 準治, 京谷 孝史
    2018 年 2018 巻 p. 20180015
    発行日: 2018/11/22
    公開日: 2018/11/22
    ジャーナル フリー

    本研究は, 分離型マルチスケール解析に基づいて材料の弾塑性力学挙動を考慮したミクロ構造のトポロジー最適化法を提案するものである. ここでは, ミクロ構造の材料体積量を制約した上で, マクロ構造のエネルギー吸収性能の最大化を目指すものである. ミクロの材料構成則は等方性のvon Mises弾塑性材料モデルで, マクロの構成則はHillの異方性弾塑性材料モデルを使用した. この研究では, 著者らが提案した感度解析法を拡張してマルチスケールトポロジー最適化に適用するもので, 条件付きではあるものの随伴ベクトルを計算せずに低計算コストで高精度の感度を得る方法を提案している. 最後にいつくかの数値計算例を示してその精度検証を実施し, 高精度の感度が得られることを確認した.

  • 宮下 哲治, 岡澤 重信, 中村 哲也, 平川 真一, 高橋 弘行
    2018 年 2018 巻 p. 20180016
    発行日: 2018/12/13
    公開日: 2018/12/13
    ジャーナル フリー

    船舶では,乗員や乗客の快適性(振動による不快さがないこと)が求められ,振動を基準値以下に抑制することが必要である.しかし,防振対策には重量増加が伴うが,建造コスト抑制の観点からは鋼材重量の増加を最小化する効果の高い防振対策を実施することが求められる.そこで,解析精度をさらに向上させるために大規模モデルによる解析が必要と考え,連立1次方程式の求解が不要であり,メモリ消費を少なくできるといった特徴のある陽解法に着目し,大規模解析に適用可能な振動解析手法の開発を試みた.本研究では,大規模モデルに適用可能な流体-構造連成を考慮した船体振動解析の開発を目的として,陽解法による計算手法の構築を行った.簡易箱モデルを対象として構築した計算手法を検証し,固有振動数及び振動モードが既存の計算手法と一致することを確認した.

  • 宮下 哲治, 岡澤 重信, 中村 哲也, 平川 真一, 高橋 弘行
    2018 年 2018 巻 p. 20180017
    発行日: 2018/12/13
    公開日: 2018/12/13
    ジャーナル フリー

    タンカー,バルクキャリア,コンテナ船といった一般商船の乗組員は,航海中は船内で長時間を過ごす.乗組員の居住性,快適性に与える要因は多数あるが,そのひとつとして振動が挙げられる.船舶は,オーダーメイドの大型構造物であり試作品での実験は実質不可能である.そのため,設計段階において振動予測を行い,適切な防振対策を実施することは極めて重要である.設計段階における防振対策の検討では,精度良く振動特性を推定することが重要なことから,数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いることが一般的になっている.主船体の2節振動に関しては,従来手法でも3%~5%の誤差である.2節振動以上の固有振動数に関しては5%よりも大きい誤差となる場合もある.上部構造や煙突が単独で振動する振動モードでは約5%の誤差であり,ほぼ十分な解析精度を有している.しかし,主船体高次振動と上部構造の連成振動といった複雑な現象の場合、解析精度が十分でないことがある.複雑な振動現象を評価する場合,現自由度モデルでの解析精度は十分と言えず,筆者らは解析精度をさらに向上させる必要があると考えている.前報において,大規模解析に適用可能な振動解析手法を開発した.本研究では,この開発した手法を用いて船体振動の計算精度を改善することと,開発した振動解析手法の大規模モデルへの適用可能性について検討した.さらに,従来は実施できなかったことであるが,大型かつ複雑構造を有する船体を過去にない詳細度でモデル化し,さらに外部流体との連成を考慮することにより,船体に発生する振動現象を計算機上で再現した.これらの検討結果から,船体振動予測のさらなる精度向上の可能性があることを示した.

  • 石原 大輔, 横田 順, 大西 南斗, 二保 知也, 堀江 知義
    2018 年 2018 巻 p. 20180018
    発行日: 2018/12/27
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル フリー

    空気力による昆虫翼の弾性変形がいかにしてキャンバーをもたらすかについて,未だに明確でないようである.そこで本研究では,昆虫羽ばたき翼のキャンバー生成における翅脈の力学的役割を解明するために,それらの形状簡略化モデルを提案する.提案モデルにおいては,翅脈をその機能に応じて幾つかの領域に分け,各領域における大域的構成関係を対応するはりによって表す.さらに,翅脈が支える翼膜は長方形のシェルによって表す.キャンバー生成で支配的な空気の動圧によるモデル翼の静的変形を考える.実際の昆虫と整合した設定の提案モデルに,幾何学的非線形性を考慮した有限要素解析を適用する.この結果,昆虫羽ばたき翼のキャンバー生成における翅脈の力学的役割を明らかにする.

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