抄録
多くの医療現場において、子どもの多くは不安を抱きながらも、安全基地である母親から引き離されて検査や処置を受けている。このような状況は、行為の調整が可能になり始める幼児後期の子どもから特に増えている。彼らも幼児前期までの子ども同様に、安全基地としての母親を必要としているが、加えて調整機能の支えとしての母親を必要としているはずである。そこで、本研究は、検査・処置を受ける幼児後期の子どもが、重要な他者である母親の関わりのあり方により、どのような影響を受けるのか、また、どのような関わりを彼らが必要としているのかを明らかにすることを目的とした。11名の幼児後期の子どもを対象に、検査・処置場面での子どもの様子、また母親が付き添えた場面では、母子の関わりを参加観察した。分析は、Colaizziの手法を用いて質的に行い、以下のカテゴリーを抽出した。母親が【子どもとの分離】をしている場合、子どもの不安・恐れは深まっていった。一方、【子どもへの付き添い】をしている場合、母親の子どもへの関わり方には、【自尊心を傷つける促し】をしている場面と、【気持ちの調整】をしながら【気持ちの共有】や【気持ちの橋渡し】を行っている場面が抽出された。前者の場合、子どもは不安・恐れ・拒否が増大し我慢を強いられていたが、後者の場合、子どもの不安・恐れ・拒否は軽減しており、さらに【気持ちの後押し】により、彼らは納得した我慢ができていた。これらのことから、幼児後期の子どもが納得して検査・処置を終えるためには、母親が傍にいて、その母親からの子どもの気持ちの共有者・代弁者としての関わりが必要であることが示唆された。