2015 年 38 巻 4 号 p. 279
20世紀は感染症の克服に時代であった.衛生環境の整備や栄養改善と,抗生物質によって人類の生存を脅かす細菌を克服した.一方,致死性細菌感染の克服とは反対に,炎症性腸疾患,過敏性腸症候群,リウマチ疾患,肥満,動脈硬化,精神神経疾患,がんなどはいずれも先進国を中心に増え続けている.さらに,抗生物質の開発のたびに耐性菌の出現という大きな問題がある.これらの疾病構造の逆相関は,先進国での生活様式,抗生物質の過剰使用,過衛生,食事の欧米化,発酵食品の衰退,ストレス,家畜や土壌から隔絶などによって,現代人は大切なパートナーである“腸内細菌”を失ったと考えられている.事実,炎症性腸疾患患者の腸内細菌は単純化し,構成パターンが乱れていること(ディスバイオーシス)がわかってきた.平和な腸内細菌コニュニティーに抗生物質の使用によって,悪玉菌より善玉菌が優先的にダメージをうければ,ディスバイオーシスを引き起こすだろう.ヒト一人は60兆個の細胞でできているが,ヒト一人は100兆個の腸内細菌を主に大腸に生息を許す.結果,ヒトは腸内細菌由来の100万個に及ぶ免疫・神経・代謝系に関わる機能遺伝子を保有する.健康なヒトの糞便を移植して疾患を治療しようとするびっくりするような治療も始まった.本ビギナーズセミナーでは,“眼から鱗”の連続の腸内細菌のまつわる最近の話題を紹介し,21世紀の臨床免疫を考えてみたい.