抄録
自己免疫疾患を考えるに際し,免疫系が有する抗原特異性は最も重要な因子の一つです.私はこれまでB細胞を主とした研究を行って来ましたが,B細胞は単に抗体を産生するだけでなく,抗原特異的にT細胞へ影響を与えるなど,免疫において中心的な働きをすることが明らかとなっています.しかし,自己免疫疾患における抗原特異的B細胞についての検討は,その存在数の少なさから未だ十分ではなく,まだまだ本質に迫れていない感があります.私は留学中に制御性B細胞の分化増殖機構を研究し,生体外で制御性B細胞を増殖させることを可能としました.この過程の中で,一つのB細胞はおよそ2万倍まで増殖しており,個々の抗原特異的B細胞についての検討を行うことができます.ところが,様々なサイトカインなどの刺激が加えられるこの系では,生体での抗原特異的B細胞の働きを正確に捉えることは出来ず,自己反応性B細胞の持つ病原性の本質に迫ることはできませんでした.個々の自己反応性B細胞の機能について検討するためには,単一細胞が持つ微量な蛋白,遺伝子の測定が必須となります.このような解析を可能とする技術は,我々が使える手法の中にはまだありません.今回はミッドウィンターセミナーで私が学んだ「本質に迫る」という理念のもと,上記の点を解決すべく思い至った単一B細胞解析について,東大工学部と共同開発を始めた独自の統合単一B細胞解析システムのご紹介をしたいと思います.