日本臨床免疫学会会誌
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シンポジウム
シンポジウム1-5 腸内細菌を標的にした疾患治療
金井 隆典
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2016 年 39 巻 4 号 p. 291

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抄録

  近年,炎症性腸疾患の増加が著しい.なぜ20万年前に誕生した新人類の歴史の中で,最近0.04%の50年間の短期間に先進国で増えてきたのか? その原因として,ヒトの共生微生物‘腸内細菌’が注目されている.すなわち人類にとって家来のような存在であった‘腸内細菌’が,実は人類の健康を保持するための司令塔であることがわかってきた.‘腸内細菌’は,ヒト由来の100万個以上の遺伝情報をヒトへ提供する新臓器とまで言われている.先進国でおこなわれている生活様式,抗生物質の過剰使用,過衛生,食事の欧米化(高脂肪低繊維食),発酵食品の衰退化,ストレス,運動不足,家畜や土壌から隔絶などによって大事な腸内細菌を失ったことが炎症性腸疾患を始め,過敏性腸症候群など腸疾患のみならず,肥満,自己免疫疾患,がん,精神神経疾患などを増加させているのであろう.事実,これらの疾患群では“腸内細菌”は単純化し,細菌の構成パターンが乱れていること(ディスバイオーシス)が次世代シークエンサーを用いたメタゲノミクス解析でわかってきた.近年,この腸内細菌の乱れを是正する目的で,健康なヒトの糞便を移植し炎症性腸疾患だけでなく様々な腸管以外の疾患を治療しようと糞便微生物移植治療(Fecal microbiota transplantation; FMT)も始まっている.本講演では,炎症性腸疾患での腸内細菌を利用した様々な治療にまつわる最近の話題を紹介したい.

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