2017 年 40 巻 4 号 p. 306d
【目的】多発性硬化症(MS)に類似した臨床経過でありながら,脳,脊髄MRIで異常を認めない症例があり,それらの症例の特徴を検討する.【方法】MS/視神経脊髄炎の診断または疑いで2016年に当院を受診した550症例のうち,MSにおける2010年改訂McDonald診断基準を臨床項目で満たし,脳,脊髄MRIで異常を認めない症例を対象とした.臨床的特徴を分析すると共に,末梢血リンパ球亜分画解析により,CD19陽性B細胞に対するB細胞亜分画の頻度を健常者群17例との間で比較した.さらに画像解析が可能であった症例を対象に,脳MRI拡散テンソル画像の統計画像解析により,白質の異方性度の低下を健常者群24例との間で後方視的に比較した.【成績】対象症例は11例(年齢39.2±7.5歳,男女比2:9)存在し,以下の臨床的特徴があった.(i)EDSS;6.0±1.5,(ii)抗AQP4抗体,抗MOG抗体陰性(11/11例),(iii)オリゴクローナルバンド陰性(9/9),(iv)免疫治療による臨床所見の改善;ステロイドパルス療法(11/11),血液浄化療法(9/10) 対象症例において,リンパ球亜分画解析ではプラズマブラストとメモリーB細胞の頻度の有意な増加を認め,画像解析では広範な白質で有意な異方性度の低下を認めた.【結論】MSに類似した臨床経過でありながら脳,脊髄MRIで異常を認めない症例が存在する.それらの症例の特徴として客観的な神経学的異常所見,B細胞系の異常を示唆する所見,広範な白質障害を示唆する所見を認めた.